宇宙混沌
Eyecatch

第2章:本当の姿 [1/4]

 せつなは眠ってしまう。とわは理玖に可愛がられる。朔の夜はいつも暇だ。
「さみー」
 昼間は平気だったが、夜になって急に冷えてきた。けど、今日は理玖の旦那に湯を強請るわけには。流石にとわとヤッてる部屋の戸を叩きたくはない。
「もろはー」
 着物を沢山被って、もう寝てしまおうとした時だった。いつもより低いが、竹千代の声が聞こえる。
「ちょっと頼み事があるんだぞ」
「何ー?」
 もう布団から出たくない。
「入ってきて良いぜ」
 戸が開く。そこに見えたのは、子狸ではなかった。
「失礼する」
 声は低めだが竹千代だ。だが、入ってきたのはどう見ても人間の、アタシより少し年上に見える男だった。
「なんだもろは。もう寝るのか?」
「あ、いや……。竹千代、だよな?」
 寝台に近付いてきた男の匂いを嗅ぐ。狸臭さは薄まっているが、竹千代、の気がする。
「そうだぞ」
「なんだよその姿!」
「今度の仕事で必要なんだぞ。このところはずっと練習してて」
 すぐ目の前まで来て、視線の高さを近付ける為にしゃがんだ。くっきりとした目がアタシの顔を覗き込む。
「寝てる間も変化[へんげ]したままでいられるか確認してほしかったんだぞ。でもお前、具合悪いみたいだから理玖様に頼むんだぞ」
「別に悪かねえよ!」
「でも顔赤いし」
「ていうか旦那はとわとお楽しみだからやめとけって」
 顔が赤い? アタシは一度起き上がって、顔を擦った。
「そういえばそうなんだぞ……」
 まだゴシゴシと頬を揉んでいた手を、竹千代の手が掴む。普段と大きさが逆転している。
「そんな擦るんじゃないぞ。……冷たい……」
 竹千代は驚いたように目を丸くして、そのまま両手でアタシの手を包み込んだ。
「なんでこんなに冷たいんだぞ?」
「アタシは四半妖だから、お前らよりも寒さに[よえ]えんだよ! 今日は理玖の旦那に湯も貰えねえし、さっさと寝ちまおうと思っただけ」
「そうか……」
 竹千代は手を離さなかった。ただその繋がれた手を見つめて、声を絞り出す。
「『四半妖のくせに』とか言って、悪かったんだぞ。もろはは好きでそう生まれてきたわけじゃないのに」
「別に気にしてねえよ。それに、親父もお袋も好きだしさ」
 第一、アタシがチビ狸とか言ったから竹千代もカッとなっただけだろ、あれ。謝るのアタシの方じゃね?
「そうか。俺は好きで狸や跡取りに生まれたわけじゃないから」
「え」
 じゃあ一体何になりたかったんだ。
 膝立ちして俯いた竹千代の背後の影が、濃くなったように見えた。アタシは怖くなって、意識を手の方に戻す。
「も、もう良いよ!」
 手を引っ込め、着物を被り直す。
「で、寝てる間もってことは、お前この部屋で寝るのか?」
「俺の部屋まで足労かけるのもな。暫くしたら叩き起こしてくれて良いんだぞ」
 そのまま床に寝転がる。
「おいおい、そんなんじゃ寒くて寝れたもんじゃないだろ」
「悔しいけどもろはの言う通りの気がする」
「ほら、入れよ」
 着物の端を持ち上げると、今度は竹千代が赤くなった。
「それは流石にまずいんだぞ!」
「何言ってんだよ。昔は一緒に寝てたじゃねえか」
「あの時は……! 夜着も足りなかったし、俺達まだ子供で……」
「照れるなよ! アタシまで恥ずかしくなってくるじゃねえか! 嫌なら床で凍えてろ!」
 着物を下げ、寝返りを打って背を向ける。すると目の前に手が置かれた。
「見ててもらわないと困るんだぞ」
 耳元で囁かれた声は、ひどく熱を帯びていた。

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