宇宙混沌
Eyecatch

春はすぐそこ [5/5]

「おい、壁を壊すな」
「ごめんなさい……」
「腰抜かしてカッコ[わり]~」
「即刻見破られる変装が一番格好悪いだろ」
「流石の俺も擁護できないんだぞ」
「何とでも言え……」
 死に損なった。初めはそのまま別人として、とわには会わずに第二の人生を送ろうと西国へ渡った。
 だが日に日に恋しさは募る。一目見るだけでも、と思い、東国に戻ってとわの後をつけた。とわは今もおいらの墓に、時々花を供えているようだった。
 それが拍車をかけた。またあの頬に触れて、抱き締めて、愛を囁きたくなった。おいらの墓の前で小さく震える背中を守ってやりたかった。それは「理玖」としてでなくても良い。
「とりあえず起きよう?」
「はい……」
 差し出されたとわの手を握る。いつになく温かかった。
「そうだ! お花見しようよ! 秋に話したの覚えてる?」
「ええ、やりましょう。皆でね」
「理玖は二人きりが良いんでしょ?」
「おい、何の話だ?」
「何だよお前ら。いつの間にかちゃっかりデキてんのかよ」
「逢瀬の打ち合わせは外でやってくれ外で」
 せつなの視線が痛い。もろはの言葉で獣兵衛にまで誤解が広がり、おいらは苦笑する。
「いや、皆でやりましょうよ。金は出しますし」
「オッ、気前良い~。今からやるか?」
「流石に飯も酒も用意できないんだぞ……」
「というか、暗くて何も見えないだろ」
「確かに。アタシご馳走食べた~い」
 勝手に騒ぎ始める皆をよそに、とわがおいらの袖を掴んで耳打ちする。
「今度二人でもやろ?」
「伊予の国に着く頃には散ってますぜ」
「何でも良いよ、花でも海でも。川でも良いかもね」
 おっと、これはとわからの逢瀬の誘いだったか。
「理玖に言わないといけないことあるからさ」
 おいらは小さく笑った。
「聞かなくてもわかりやしたよ」
 とわの肩を掴み、素早く唇を寄せた。とわの頬が桜色に染まる。
「花見もこれで十ぶ……」
 いきなり襟巻きを掴まれて引き剥がされる。
「お前、今とわに何をした」
「せ、せつな、理玖の首絞まっちゃう……」
「恋人の口吸って何が悪いんですかねえ」
「恋人ぉ!?」
 さっき茶化したもろはが大声を出す。
「いっ、いつから!?」
「おいらが好いてるのは、出逢った時からですが」
「とわは?」
 せつなの三白眼がとわを向く。とわは、今度は林檎のように紅くなりながらも、こう答えた。
「私も最初からかな!」

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