宇宙混沌
Eyecatch

第5章:擬態 [2/3]

 とわ様の実家を辞し、コンビニとやらで写真を印刷した。ついでに飲み物を買って、人気の無い「公園」という場所の長椅子で休む。
「……結婚したんだなあ」
「そうですよ」
「やっと実感が湧いてきた」
 とわ様は鞄から写真を取り出して眺める。
「今の髪の色だと洋服の方が似合うね」
「着物の方が着慣れてるんですけどね。着付けの担当にもそう言われやした」
「私も。『お若いのに随分慣れてますね』って」
 とわ様は大事そうに写真を戻した。おいらは目を瞑る。
「もし、理玖も私も、この時代に人間として生まれてたらさ」
 とわ様の話を聞きながら、周囲を探知する。人間の男が四人、こちらを覗っている。妖怪の気配は無い。
「どんな人生を歩んでたんだろうって。私達、結婚するかな?」
「結婚には拘りませんが、おいらは絶対にとわ様のことを見つけ出しますよ」
 目を開けて、とわ様の手を取る。
「ところで、指輪が欲しいんですかい?」
「えっ」
「宝石店の見本を見てらっしゃったじゃないですか。この時代では、日本[ひのもと]でも夫婦は指輪をするのですね」
「あは、バレたか……。そんなつもりじゃなかったんだけど……」
「大陸の方ではdiamondが付いているのが人気のようですよ」
「え、戦国時代[むこう]でもあるんだね、結婚指輪」
「もちろん」
「じゃあ機会があれば……って言いたいところだけど、刀が握れなくなっちゃうから。そのお金で何か他の楽しい事しよ?」
「へえ~どんな?」
 とわ様が弾かれたように、声がした方を向いた。
「お前ら……!」
「よう日暮。久し振りだな」
「ガブリエルでは不登校だったんだって? 怖えなあ女の園は」
 やれやれ。おいらはとわ様の手を握ったまま、短く溜息を吐く。
「別にいじめられてなんかない!」
「とわ、あまり怒ると体に良くない」
「だって」
「おうおう、隣のにーちゃん」
 顔に傷のある男が前に出てくる。
「日暮とどういう関係だ?」
「話は聞こえてたんじゃないのかい?」
「質問に答えろ」
「理玖、相手にすることないよ」
 とわ様が鞄を手に立ち上がろうとしたところ、一人が素早く鞄を奪った。
「ちょっと!」
 そのまま突っかかっていきそうなとわ様を止める。
「理玖……」
「婚約者だよ」
 相手はとわ様の年齢を知っている。とわ様はまだ結婚できない。こう答えるのが無難だろう。
「こっ、こんやくしゃ……」
「何だよ、暫く見ない間に色気付きやがって」
「日暮も所詮女かあ~」
 めいめいに勝手なことを言う手下の中で、顔に傷のある男は驚愕を顕にした。
「結婚するのか……俺以外の奴と……」
「「「「はぁ?」」」」
 とわ様と手下三人が口をぽかんと開ける。
「いや、あんたと結婚するわけないじゃん」
「アニキぃ~鏡見たことないんすか?」
「日暮の実家って超金待ちなんすよ? 許婚者が居るって言われる方が納得感あるっす……」
「まさかアニキが恋煩いしてるのが日暮だったなんて!」
「ええい五月蝿え! とにかく俺は認めないからな!」
「いや親が認めてるし、あんたに口出す権利無いから」
 とわ様の冷静な指摘に、男は唇を噛む。おいらは笑いを堪えるのに必死だった。
「大体こんな優男の何処が良いんだ!」
「優男だからじゃ?」
「喧嘩も絶対俺の方が強い!」
「喧嘩が強ければモテるって思ってるからモテないんすよ」
 今度は弟分達から水を浴びせられている。平和的な解決方法を考えていたが、勝手に自滅してくれるかな?
「勘違いも程々にしなよ」
 とわ様は溜息を吐く。
「理玖は喧嘩も強いよ。顔も良いしお金も持ってるし優しいし、あんたが勝てるとこ無いよね?」
「とわ、意外と容赦なさらないんですね」
 男は歯ぎしりをすると、弟分に命じた。
「……その鞄、やっちまえ!」
「それは困る」
 おいらは耳飾りを素早く二回弾いた。気付けば鞄がおいらの手元に移動していたことに、男達が目を丸くする。移動したのはおいらだけどな。
「んなっ……?」
「も~外ではやめてって言ったのに~」
「背に腹は代えられません。今から起こることもご容赦を」
 平和的に、というのは案外難しいものだな。周囲に他の気配は無い。おいらはとわ様に鞄を渡すと、まず目の前の男の顎を蹴り上げた。気絶した男を跨ぎ、その後ろに居た弟分を突き飛ばす。残る二人も手刀と膝蹴りで仕留めて終了だ。
「あちゃー」
 気絶した四人を見て、とわ様が頭を抱える。
「骨は折ってませんよ、多分」
「ま、警察来る前に逃げよう。家まで来たら白を切ろう」
「鞄が瞬間移動した、なんて証言をこの時代の人間が信用しますかねえ?」
 手を取り合ってその場を去る。途中でとわ様が、さも可笑しそうに声を上げて笑った。

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