「理玖の旦那、死んだんだってさ」
とわとせつなに連れ出されていたもろはが、帰ってくるなり暗い声でそう言った。
「……そうか」
獣兵衛様が呟く。俺は言葉が出ない。狸使いの荒い面もあったが、きちんと報酬を支払ってくれる上客だった。何より俺の命の恩人でもあった。
「そう簡単にくたばるタマには見えなかったが……それだけ強敵だったということか」
「旦那、麒麟丸の角だったんだってさ。とわの話では、麒麟丸の右腕にやられたって」
やっぱりそうだったのか。折れた角にも価値があるのか――あれは自分の事を問うていたのだ。
もろはが涙ぐむ。一番悲しんでいるのは、一緒に行動していたとわだろう。だからとわの前では泣かないようにして帰ってきたのだと思う。
「泣くなだぞ。つられて俺も涙が……」
「こういう時は泣いてやれ」
獣兵衛様も向こうを向いた。
「そうすりゃ角の値段は、付けようと思っても付けられくなる」