宇宙混沌
Eyecatch

第1章:実家に帰らせていただきます


「ん? どうしやした?」
「ごめん理玖、もうちょっと寝てて」
 私は目覚めた理玖の頭を思いきり殴って気絶させた。暫くして麒麟丸が話し出す。
[いた]……お前、夫になんてことを」
「だって理玖寝てなきゃ麒麟丸喋れないんでしょ!? お腹に子供が居るって本当? どうしてわかるの?」
「死者しか入れぬ特別な情報網があってな」
 は? なにそれ? 今度誰々さんが誰々さんのとこのお子さんに生まれ変わるみたいですよー的な?
「もう宿してから三月[みつき]ほど経っているようだから、人間に診てもらっても判るだろう」
「そ、そうなの……。ん? 三月?」
「どうした? まさか理玖の子ではないのか?」
「理玖の子であってほしいの? っていうか、どうして私の子供の心配をするの?」
「儂もりおんも死んで、残るは理玖のみだからな。我が一族は理玖のやる気と体力と甲斐性にその命運を委ねるしかないのよ。最早相手を選んではおれん」
「そういうものなの……。えっと、理玖の子なのは間違いないよ。でもそうすると、結構最初の方で出来ちゃったんだなあと……」
 その後も普通に戦ってたけど、こうやって忠告してくれてるってことは、まだお腹の子は大丈夫って事だよね?
「それは妙だな。お前達は異種族だから決して孕みやすいわけではないぞ。更にお前は半妖で、相手が犬の一族や人間であっても、半妖でない場合とは可能性が格段に低い」
「あーやっぱりそうだよね。犬は割と雑種が作れるけど、他の動物だと混血は繁殖能力無いのが普通だもんね」
「結構酷な事を言った気がするのだが、お前が納得しているのなら良いか……」
「うん。教えてくれてありがとう。そっか、だから朔の日に……」
「朔の日?」
「人間になっちゃうから」
 麒麟丸はそれを聞いて、特大の溜息を理玖の口から吐いた。
「あまり理玖[こいつ]を信用するな」
「なんで」
「曲がりなりにも儂の分身なのだぞ。寧ろよく信用する気になったな」
「だって理玖は理玖だし。ていうかそんなに自分を卑下しないでよ」
「とにかくとわ、お前が思うほど、そして見た目から想像できるほど、理玖は綺麗な男ではない。お前がどんな理想を描こうが、元は麒麟丸だということをゆめゆめ忘れるな」
「そりゃあ完璧な人なんて何処にも居ないし」
 麒麟丸は小さく呆れた声を出して、口を閉じた。
「ん゛~~~[]っててて。何するんですかとわ様~」
「ごめんごめん、ちょっと寝惚けてて。それより、ちょっと里帰りしたいんだけど」
「昨日の事まだ許してくれてないんです?」
「いや、もうそれはどうでも良いや」
「どうでも良い!? では何故」
 貴方の子供が出来たんだよ。その一言が言えなかった。
 思えば告白も共寝の誘いも全部理玖からばかり。他の人にだって大事な告白をした事なんてない。心臓がバクバクする。
 だいたいプロポーズらしいプロポーズはされてない。まさか遊びだったなんて思わないけど、異種族だから子供なんてそうそう出来ないだろうって理玖は踏んでいたならどうしよう。
 落ち着け、落ち着け。緊張はお腹の子に良くない。
「その、ちょっと……せつなや母上達に会いたいなぁって」
 妊婦が海賊なんて足手まといになるだけだ。実家に帰らないなら、少なくとも町に家を確保するしかないけど、私を狙う悪い妖怪共から守ってくれる人が居ない所はできるなら避けたい。自分で戦えない以上、しょうがない。
「そうですかい。仕事があるからおいらはお供できやせん。籠と、こちらの地方の退治屋を手配しましょう」
「うん」
 理玖は眉間に皴を寄せて、身支度を始める。船の出発時刻を考えると、ゆっくりしている暇は無かった。私も見送りと、自身の出発の為に準備をする。
「それではお気を付けて」
「うん、理玖も」
 理玖は最後に私を抱き締める。
 今言わなくて、いつ言うんだ。
「あの――」
「旦那~急いでくだせえ~」
「今行く! それじゃ、仕事が終わったらおいらも追いかけやすんで」
 本当は私も船に乗って行きたかった。理玖は甲板にも現れないで、そのまま水平線の向こうへ姿を消した。

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目次

  1. 実家に帰らせていただきます
  2. 父親
  3. Never come true
  4. 貴方だけのお姫様
  5. 言い訳できない
  6. ましな方の地獄
  7. 一角の甪端
  8. 溺れていたのは
  9. 一緒に帰ろう

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