第1章:実家に帰らせていただきます [2/3]
時折共寝をする日々が暫く続いて、それは仕事が一段落して陸に上がった時の事。
「なんでまけたりするの!」
「少しくらい良いじゃないですか。おいら達は金には困ってやせんし」
「そうやって例外を出すと際限なくなるよ!」
市で町人達に小売りをしていたら、理玖が一人の客に値引きをした。どうしてそうしたのか、話はちゃんと聞こえなかったけど、相手が綺麗な若い女の人だったのは見て取れた。
「も~機嫌直してくださいよ~。金でも絹でも何でも欲しい物あげますから」
「そういう話じゃないよ! 船に乗ってる人達養わないといけないこと解ってるの!?」
どうしてかそんな些細な事を許せなかった。埒が明かないので私は裏方へ引っ込む。値引きでもなんでも好きにすれば良い。
そうやって喧嘩をした夜も入るのは同じ布団だ。そして、そうしてしまえば私は断れない。
理玖だって毎日誘ってくるわけじゃないけど、喧嘩した日はこれで機嫌を取ってやろうとする魂胆が透けて見える。それでも、あの緑の瞳が瞬けば、私は首を横に振れないんだ。
「お前、戦や海には出るな」
明け方、麒麟丸の声が聞こえた。夢だろうと思い、剥き出しの理玖の腕に顔を擦り付ける。
「やめろ、理玖が起きるだろう」
夢じゃない。その声は理玖の口から漏れ出ていた。
「なっ、なっ」
「すまない、驚かせたな」
大きな声が出そうになって、慌てて自分の口を塞いだ。息を整えてから囁く。
「そりゃ驚くよ~。麒麟丸だよね? 死んだんじゃないの?」
「理玖を生かす為に儂とりおんの魂魄を使ったからな。縁がまだ繋がっているらしく、理玖が寝ている間は周囲のものを儂らも知覚できるようだ」
「え、じゃあもしかして昨夜私達が……」
麒麟丸に裸やら痴態やら見られたかと思い、血の気が引く。
「安心しろ。というか落ち着け。理玖が寝ている間しかわからんのだ。このところは隣から寝息や寝言が聞こえるので、お前と寝ているのだとは分かっていたが。見ての通り、喋る以外の動作も出来ん」
「それで、何の用? どうせならりおんが出てきてよ」
「そうしたかったが理玖の体は儂の角ゆえ、りおんでは動かせなかったのだ。話は先程言った通りだ」
「そんな、理由も話してくれなきゃ。明日からも商船護衛の仕事があるし」
「腹の中に子が居てもか?」
へ?
「えええええええええ!?」
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Written by 星神智慧