宇宙混沌
Eyecatch

第4章:姫様の依頼 [3/4]

「指輪を失くした!?」
 ほらやっぱり怒るんだぞ。俺はとわと理玖様に茶を淹れながら、二人の会話を眺めていた。
「すいやせん。何処かで落としたみてえで……」
「んもー! だから最初から要らないって言ったのに!」
「とわ、あんまり怒ると腹の子に悪いんだぞ」
「竹千代はちょっと黙ってて」
 とわの指にも同じ金色が嵌っている。刀が握れなくなるから要らないってとわは言ったのに、理玖様が勝手に作らせた。なのに今はとわの方がご執心の様だ。
「それで、仕事の内容は? 断るつもりが引き受けちゃったんでしょ?」
「ええと、その……今回は姫様達の手を借りる必要は無いでしょう。おいらと竹千代でなんとかしやすんで」
「また理玖の特攻なの!? そういうの今後はやめようねって前に話し合ったじゃん!」
 もう手が付けられないんだぞ。俺は茶道具を片付ける為に黙って部屋を出る。
「よいしょっと」
 背丈の無い狸の姿では正直運び辛い。
「人型か……」
 理玖様の頼みでもあるし、とりあえず何かを運ぶ間だけでも良い。変化できるようになれば便利だろうとは思った。
 茶道具を片付け、自室に戻る。目を瞑り、昔習った手順を思い出しながら変化した。
 目を開けて、伏せて置いていた鏡を取る。
「……醜男だったら、断れたのに」
 理玖様が聞いた噂は本当か。皆は俺を母親似と言っていたからな。
「俺は一体何者なんだぞ」
 裸のままでは心許ない。夜着の代わりにしていた着物を羽織り、腰を下ろす。
 恵まれた生まれであったのに幼名以外何一つ受け継げず、また受け継ごうともしなかった。賞金稼ぎの竹千代――俺の肩書きはずっとそうだ。賞金稼ぎとして戦いに出ることは殆ど無かったのにも拘わらず。万が一にでも俺に何かあれば獣兵衛様が責任を取らされただろうし、狸穴[まみあな]将監が好機とばかりに俺に付いていた家来の掃討にかかっただろう。
 でもそれでも良かった。俺より酷い目に遭ってる奴が近くに居たから。
『獣兵衛様、誰なんだぞこいつ?』
もろはだ。理玖様[あのおかた]からの依頼を片付ける為に身請けした』
 半端な四半妖で両親の記憶が無く、頼みの師匠にも売り飛ばされるという目に遭ったもろはより、俺の身の上の方が幾分かマシだ。そう思えば一時の慰みにはなる。
『あのお方って?』
『知る必要は無いんだぞ』
『そうかよ。つーかお前は誰なんだよ』
 その時も俺は答えられなかった。信用できるか判らない奴に打ち明けられるか。代わりに獣兵衛様が答える。
『竹千代だ。うちの上客の付き人のような事をしている』
『へえ。よろしくな、竹千代』
『……フン、身請けされたのが遊女屋じゃなくて良かったな。せいぜい一生懸命働いて、早いとこ借金を返せば良いんだぞ』
 もろはが不幸であればあるほど、俺は救われる。だから最大限厭味ったらしく言ったのに、俺は幾ら働いたって何処にも行けない事を思い出した。
『言われなくてもそうしてやるよ!』
 自分が先に喧嘩腰だったくせに、そう返されてとても寂しい気持ちになった事を憶えている。
 ずっともろはが屍屋に居てくれれば良いのにと思った。初めは憐れみだった。言い争いでも良いから同じ年頃の子供と話がしたかった。でもいつしかそれが当たり前になって、もろはの強さや明るさ、奔放さが憧れになって。
 その変化[へんか]に気付いた時、俺は決めた。あいつが屍屋を去る時、俺からは引き留めないって。
 四半妖のもろはは、あっという間に俺を追い抜いて大人になっていく。最初から俺と同じ時を歩んでいくことは出来ない。短い人生を謳歌させてやるには、俺みたいな何も持ってない奴が側でうろちょろしてたら邪魔だろう。もろはが俺を選んでくれるならともかく。
 そう思っていたのに。
「とんでもないものを受け継いでいたんだぞ……」
 俺は伸びた指の付いた手で顔を覆う。
 確信に近い予感があった。この姿は俺達の関係を変えてしまう。その変化が一番怖かった。

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