宇宙混沌
Eyecatch

第4章:姫様の依頼 [1/4]

 あれは一月ほど前の事だ。おいらはどうしてもと頼まれて、ある城まで竹千代と赴いた。
「随分と海から遠いんだぞ」
「一応領地は海の方まであるみたいだがね」
「どういった依頼なんだぞ?」
「どうやらおいらの『顔』が必要みたいで。だから今日は変えてないのさ」
「顔?」
 城に着き、呼び出しの文を見せる。通された部屋で頭を下げていると、誰かが入ってきて奥に座った。
「面を上げい」
 芯の強い女の声。何処かで聞いたような、と思いながら顔を上げる。
 そこに居たのは、綺羅びやかな着物を着て、丁寧に化粧を施した姫君だった。彼女は短めの眉の下の目を見開く。
「お前は!」
「姫様!?」
「知り合いですかだぞ?」
 隣で竹千代が囁いたが、間髪入れずに姫が叫んだ。
「この者共を捕らえよ!」
「ハア!?」
 四方八方から忍が飛び出してきて、まず竹千代を拘束する。おいらだけなら逃げられるが、また竹千代を置き去りにするような薄情は真似はしたくない。大人しく捕まった。
 姫の付き人の一人が尋ねる。
「あ、愛矢様。この者等は愛矢様がお呼びした『見目の良い海賊』ではなかったのですか?」
「『見目の良い海賊』、確かにその通りじゃ、その顔なら件の妖怪も誘き出せよう。だが同時に、嫁入り前の我を誑かした盗人じゃ」
「刀はちゃんと返したでしょう」
「ああそうじゃな。代わりに我の着物を汚してな」
 その話は何のことだかわからないが、とにかくまだ根に持っているらしい。
「誑かしたなんて。確かに菊十文字を盗んだ事は認めますが、それに気付きながら私を見逃したのは姫様では?」
「見逃したのではない。お前がまた会いに来てくれると言ったから、我は信じて預けたのじゃ!!」
「なるほど、姑息な色仕掛けのつもりが、うっかり再会してしまったんだぞ」
 竹千代の察しの良さを褒めてやりたいが、今そんな余裕は無い。どうやってこの姫様の機嫌を取ろうか……。
「して、こやつらどうします?」
「とりあえず牢に入れておけ。男の方は後で引き回しにしてから打首じゃ」
「待ってください! それじゃあ本来の目的の、人食い妖怪の退治ができないでしょう!」
「確かに。引き受けてくれるのか?」
「勿論です。菊十文字の件のお詫びに、報酬はいただきません」
「働きに見合った褒美は出す。どうせただ働きと、そのまま逃げられても困るからな」
 そうじゃな、と愛矢姫は少し考えてから、にやりと笑った。
「菊十文字はあの後、退治屋に下げ渡された。それを取り返してきてくれぬか? さすればあの日の事は水に流そう」
「菊十文字を、ですか」
「武蔵は遠いからな。一月の猶予をやろう。妖怪退治もその時頼む」
 菊十文字はとわ様の手元にあるから、武蔵まで行く必要は無い。が、とわ様の刀を渡すわけには……。
「愛矢様、それではその間に逃げられてしまいますぞ」
「ふむ。その狸を人質に置いて行け」
「ヒエ」
「こいつは私の足なもんで、ご勘弁を」
「ならそやつと同じだけ価値のあるものを預かる」
 おいらは考えを巡らせる。耳飾り、は駄目だ。流石に武器を手放すわけには。おいらにとって大切な物はとわ様との写真だが、船にあるから今渡せないし、相手にとっても一定の価値が無いと人質としての役目は果たせない。
「理玖様、俺が人質になるんだぞ」
 竹千代の申し出には首を横に振る。おいらは腕を押さえていた忍に言った。
「指輪を置いて行く。外すからちょっと放してくれ」
「そう言って逃げるつもりではあるまいな?」
「良い、放してやれ」
 姫の一声に、忍は渋々従う。
「妙な動きをしたら斬る」
「理玖様! それは……!」
 竹千代の制止は無視して、左手に嵌めていた金の指輪を抜いた。
「一月後、私達が戻らなければ、その時はご自由に。金ですからそれなりの値にはなりましょう」
 愛矢が興味津々で身を乗り出す。
「それは南蛮の品か?」
「wedding ringと言って、夫婦[めおと]で着ける物です。人質の代わりですから、事が済めば返していただきたく」
 夫婦、という言葉に、姫様は眉尻を下げて溜息を吐いた。
「約束しよう」

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