第5話:妖怪退治 [3/4]
「なあ翡翠?」
理玖が翡翠に話を振った時だった。翡翠がほぼ同時に言葉を発する。
「誰かと遭遇したみたいだ」
理玖が貝殻を取り、妖術で大きくする。三人で聴けるようになった。
『食べるか?』
『良いのですか?』
「狸だとバレなきゃ良いがねえ」
女と竹千代の会話を聴きつつ、理玖が呟く。
「あいつ芝居は上手いから、そこは心配いらねえよ。アタシに化けてとわや他の狸の目を欺くくらいだし」
「とわ様が匂いで気付かなかったんですかい?」
「そうだよ」
「……でもそりゃあ、お前さんへの変化に限るだろ」
「なんで?」
理玖は笑っただけで答えてくれなかった。代わりに翡翠が耳打ちする。
「竹千代がそれだけもろはのこと良く知ってるってことだよ」
やっと意味が解る。アタシの体形の細部や口調、肌や髪の質感、匂いまで、全部覚えてないと出来ない芸当ってことか。
「マジかよ……」
「二人で移動し始めた」
理玖の鋭い声に、アタシ達は貝殻に集中する。
『その誰かが賊でもか』
そう竹千代が言った直後、轟音と叫び声が響く。理玖が舌打ちをして消えた。
『タカマル!!』
地割れの音が遠ざかる。タカマルに掴まったか。
「クソッ! 逃がした!」
先に土埃に塗れた理玖が帰ってきた。少し遅れて、巨大化したタカマルが甲板に竹千代を落とす。
「竹千代! 無事か?」
「無傷ではないんだぞ」
駆け寄ろうとしたが、先に理玖が近寄る。起き上がろうとした竹千代の頬を平手打ちした。
「えっ」
「ああいうのはもっと腕が立つ奴が使う手だ」
「すみません……どうしても見分けられなかったので……」
「お前は自由になったかもしれねえがな、孤独になったわけじゃねえんだよ。若君じゃなくなったかもしれねえが、奴隷になったわけでもねえ」
竹千代は叩かれた頬を押さえ、唇を噛んで俯く。
「おいらより頭が良いんだから解るだろ」
「はいだぞ……」
「まあまあ、とにかく戻って来れたんだし。それで、何の妖怪だったんだい?」
見かねた翡翠が割り込んで説教をやめさせる。
「土竜なんだぞ」
「道理でいくら探しても姿が見えねえわけだ。流石に地面の下までは透視しなかった」
理玖は服の土を払う。竹千代の髪に付いたのもわしゃわしゃとやって落とした。
「竹千代戻ってきたの!?」
騒ぎを聞きつけ、船の中からとわ達が出てきた。竹千代の袴が裂けているのを見て、とわが治療の為に中へ連れて行く。
「この後翡翠が行くのか?」
せつなが尋ねる。理玖は首を横に振った。
「いや。向こうも気が立ってるだろうし、今日のところはやめといた方が良いでしょう」
「丁度良い。せつな、相手は土竜だってさ」
「道具作りか。手伝おう」
「退治屋は知見が多くて助かるよ」
「腕の見せどころってね。あとは退治屋にお任せあれ」
翡翠とせつなも船の中へ。理玖は貝殻を小さくすると、アタシに渡した。
「竹千代に返しといてくれ」
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