宇宙混沌
Eyecatch

第5話:妖怪退治 [1/4]

「やっぱり竹千代の色気カンストしてない? 目力どうなってんの」
「色仕掛けなどしなくとも、相手を見つめるだけで落とせそうだな」
「褒めても何も出ないんだぞ……」
 とうとう日が変わってしまった。竹千代はわざと襤褸を着て、田舎の人間になりすまそうとしているが、双子達が言うように顔の良さが目立ちすぎる。
「ま、今回の相手ならこのくらいで丁度良いんでねえの」
 侍の格好をした理玖がやって来て、竹千代の顎に触れて上を向かせた。美男と美少年の並びに、双子達だけでなくアタシや男衆まで色めき立つ。
「うわ、顔の圧が強い。目の保養にはなるけど……」
「何かに目覚めそうだ」
「せつなぁ!? お前まで妙な事言い出すなよ!」
「冗談だ」
 せつなは微笑み、それからアタシに囁く。
「それで、ちゃんと言えたのか?」
「何を?」
「『アタシ以外と寝たら承知しない』って」
「言えるわけねーだろ! 仕事なんだから仕方ないし!」
「二人共何騒いでんの?」
「出番が無いからって緊張感無さすぎなんだぞ……」
 理玖の支度の仕上げを終え、とわと竹千代が呆れた声を出す。
「それじゃあ、まずはおいらが行ってきますよ。午の刻頃には一度戻ります」
「気を付けてね」
 一人で船を降りる理玖を皆で見送る。相手は警戒心がかなり強いらしく、護衛は付けない。向こうの様子は、上空高くに飛んでいるタカマルと、竹千代の妖術を施した白い巻き貝で偵察する。
「たまに地元の民に挨拶している以外は、変わったところは無いんだぞ」
 半刻ほど過ぎて、耳に貝を付けたまま竹千代が報告する。
「もっと奥の方に居るのだろうか」
「だとすると、船から出発っていうのは大変だったかもね」
 双子達は揃って腕を組み、顎に触れる。
「聞き込みによると、被害範囲は海の近くまで結構広いんだぞ。浜辺や人里には出ないみたいだけど……」
 しかし結果は虚しく、宣言通り昼に理玖は手ぶらで戻って来た。
「駄目だ。こっちも妖怪だって気付かれてるな。気配や視線は感じるが、何処に隠れてるのかさっぱりわからねえ」
「タカマルも何も見えなかったって言ってるんだぞ……」
「……竹千代、その姿で脚に纏わりつかないでくれるか? 重い」
「だって理玖様が失敗してくるから~! 次は俺が行かなきゃなんだぞ~!」
「おいらが失敗するのは最初から織り込み済みだろ!」
 竹千代は蹴り飛ばされて転がる。それを見て、姿は変わってもちゃんと竹千代なんだなと安心した。
「飯食ってくか?」
「山菜採りながら何か食べるんだぞ」
 アタシの視線に気付いたのか、転がった竹千代と目が合った。竹千代はすぐに逸らして、起き上がると大きな籠を背負う。
「はー……。辞世の句は昔詠んだのがあるから、その時は菊之助に届けてほしいんだぞ」
「縁起でもねえな。何かあったらすぐ行くから」
 翡翠が貝殻を受け取り、皆で竹千代とタカマルを送り出す。竹千代は振り返らずに歩いて行くと、やがて森に消えた。
「心配か?」
 消えたその背を睨んでいると、理玖がいつもの装備に切り替えながら尋ねてくる。
「そっ、そりゃ、あいつ戦い慣れてねえし」
「自分の首が、他の大勢と繋がってる事も解ってたんだろうなあ」
 理玖を見上げる。理玖の方がアタシの何倍も心配している顔をしていた。
「竹千代は、もう自分の生死で他の奴等の運命が変わる事なんて無いって思ってるかもしれねえ。好んで無茶はしねえだろうが、『何が何でも生き抜かなきゃならない』って最後の砦が無くなったから、悪い方に諦めが良くなってねえか心配だ」
「って、旦那が行かせたんだろうが!」
「解ってるよ。だから場所が判り次第、助太刀しに行くつもりだ」
 理玖は翡翠を振り返る。
「今どうなってる?」
「足音と山菜千切る音しか聞こえない。何かあったらこっちから言うよ」
 暫くして、とわせつなは昼飯を食べに船の中へ戻る。理玖は残ったアタシに、またちょっかいをかけた。
「朔の夜、竹千代がお前の部屋に行ったのか?」
「……その事は絶対何も話さねえ」
「竹千代もそう言うんだよなあ。それじゃ、おいらの方で勝手に解釈しやすぜ」
「やましいことは何もしてねえよ。竹千代と寝るのも初めてじゃなかったし」
「その『寝る』は文字通りの意味の方かい?」
 やれやれ、と理玖は溜息を吐く。
「竹千代も物分かりが良すぎるんだよなあ」
「?」
「竹千代の顔について何か言ったか?」
「アタシは別に何も。人の姿になってたのは驚いたけど」
「色男だとは思わなかった?」
「そりゃ思ったけど。でも中身は竹千代だぜ?」
 でも、そんな竹千代に抱かれても良いと思ったんだった。それを思い出して、顔が赤くなったのだろうか、理玖は短く笑うと、今度は面白そうに顔を歪める。
「同じ布団に入る度胸があるなら押し倒しちまえば良いのに。なあ翡翠?」

闇背負ってるイケメンに目が無い。