妖幻の花 [3/3]
「昨夜騒がしかったな」
翌日、支度に時間がかかっている夜叉姫達を待つ間、面白がってるのか呆れてるのかよくわからない声色で理玖が言う。
「べっ、別に何もしてないんだぞ!」
俺に掴みかかったまま寝入ったもろはをちゃんと布団に寝かせたりはしたけど!
「ほう、ならば私の勝ちだな」
背後から声がかかる。一足先に支度を終えて降りてきたせつなだった。
「しゃあねえな」
理玖が懐から財布を出し、銭をせつなに投げる。
「なっ!? 俺達がどうなるかで賭けてたのか!?」
「勝てる勝負に乗らない訳がないだろう」
「あっしもそう思ったんですけどねえ。他の姐さん方には内緒ですぜ」
せつなが俺を信用してくれてるのは嬉しいけど、なんかすごい複雑な気分なんだぞ……。そんな俺の様子を見て、せつなは言った。
「お前は理玖と違って、安心してもろはを任せられるからな」
「寧ろなんであっしはそんなに信用無いんです?」
「『詮索するな』という条件で護衛を雇う奴が、真っ当である筈がないからな」
「お待たせ!」
険悪な雰囲気になりかけたところで、残る二人も降りてくる。
「さて、では行きますか」
理玖が先導する。それについて行こうとしたもろはが俺を振り返った。
「お前はどうする? 仇討ちは終わったけど……」
確かに。別についてく必要はない。けど。
「……仇討ちが終わったら、雇ってくれるんじゃなかったのか?」
もろはは俺の言葉に戸惑った顔をして、首を傾げた。
「そうだっけ?」
「もう忘れてる!?」
「もろは、自分の発言には責任を持て」
「せつなちゃんは相変わらず手厳しいなあ」
もろはは俺を見ると、花の様に微笑んだ。
「竹千代が来たいんなら歓迎するぜ」
「……一緒に行く」
そう答えると、もろは以上に喜んだ奴が二人。
「本当? じゃあこの荷物また笠に入れてくれない!?」
目をきらきらさせて、背中に背負った大荷物を置いたのはとわ。
「まー!」
舌の回らない口で、最大限の喜びを表現して俺を抱え上げたのはりおん。
「はあ……。まあ良いんだぞ」
「溜息吐くと幸せが逃げるぜ」
もろはが言って、悪戯っぽく笑った。
「お前本当は覚えてたんだぞ」
「さあな」
「姐さん方、お嬢も。いつまでそこでくっちゃべってるんですかい」
「悪い悪い」
数歩先で待っていた理玖が声をかける。
別に構わないんだぞ。行く所の無かった俺に、当面の目的地が出来たんだから。
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