宇宙混沌
Eyecatch

夢は終わる、愛は死なず [8/8]

「みんなによろしくー!」
 あれから一月ほど後。まだ皮膚は引き攣るが、おいらは普段の生活を取り戻していた。もう大丈夫と判断したのか、竹千代達は東へと旅立つ。
「静かになりやしたね」
「そうだね」
 見えなくなるまで見送った後、おいらととわ様はそのまま甲板で話をする。まだ風は刺すように冷たいが、とわ様も半妖だ。少々の事では凍えない。
「寒くありやせんか?」
 それは解った上で訊きつつ、手を引いて抱き寄せる。以前からそうだが、とわ様は全くと言って良いほど抵抗しない。
「ちょっとね。理玖は温かいね」
 前と違って。おいらの袖に顔を埋めたとわ様が、そう言ったような気がした。
もろはにもこうしてあげてたの?」
「ありゃ、知ってましたか」
「匂いでね。私も朔の日は辛かったもん。もろはには、多少マシかもだけど毎日だもんね」
「どちらかというと、話を聞いてもらいたかったようですよ」
「そういえばそう言ってたかも」
 とわ様がおいらの腕から抜ける。東の方角を見て、眉を下げた。
「私って、薄情なのかな」
「え?」
せつなもね、父上や母上のこと、恋しく思うって時々漏らしてたんだ。でも私はそこまでじゃなかったし、こうして結局船に残ってる。多分、私の中では、まだ『両親』って、草太パパと萌ママのことなんだ」
「とわ様……」
「もう会えない人より、今ここに居る人を大事にすれば良いのにね」
「……もう会えないからこそ、胸の中で大事にしておかないといけないのではないでしょうか」
「へ?」
 おいらも東の空を見る。
「おいらも全部失いました。でも、アネさんやりおん様と過ごした日々の記憶、その時感じた想いまでは失くしていません。感情ってのは、似たような場面で思い出すものなんですね。その時、死んでしまった彼女達が蘇る気がするんです。それがおいらの見る幻でも」
 とわ様を振り向くと、彼女は肩の荷が下りたように微笑んだ。
「私、麒麟丸なんかより理玖の方がよっぽどロマンチストだと思うな」

闇背負ってるイケメンに目が無い。