夢は終わる、愛は死なず [7/8]
「――てなわけで、私以外は理玖の怪我が治ったら東に帰るってさ」
「なるほどね」
様子を見に来たとわ様に、竹千代の無事を聞く。ついでに、姫達の今後の動向も。
「せっかくご母堂も解放されやしたのに、帰らなくて良いんです?」
家族で過ごした時間の何倍もこの船に閉じ込めていた。とわ様だって両親と積もる話があるだろう。
「うん! もうちょっと海に居たいかな」
「そうですか」
海に居たい、か。それでも良いか。何にせよ、とわ様はおいらの側に残ってくれるのだから。
うつ伏せのまま顔を横に向けて、とわ様に微笑む。とわ様はふい、と目を逸らして話題を変えた。
「理玖ってば、いっつも背中怪我してるね。私を庇った時も」
「流石のおいらも、真正面から攻撃を受ける度胸はありやせんよ」
「でもあの時は、受けてくれたよね」
あの時とは。ああ、希林に向かって行った時か。
「理玖、捨て身で向かっていくこともあるしって思ったら、すごく心配になったよ」
「もう無茶はしませんよ。あの時はおいら、どっちに転んでも死を待ってるだけでしたからね」
今は違う。己の意志で、生きる選択ができる。
「今回は作戦で下手打ちましたが」
「うん。もうちょっと慎重にやるべきだったね」
どう話を続けて良いのかわからず、沈黙が流れる。部屋の外に誰か来た音がして、とわ様は立ち上がった。
「理玖様~」
竹千代と、他の姫様が二人、顔を覗かせる。
「本当に掠り傷で済んだのか」
「申し訳なかったんだぞ! 俺がもっと早くに気付けば……」
「おいらも荷に気を取られてたからな。お互い無事だったんだし言い合いは無しだ」
「理玖様は全然無事じゃないんだぞ~」
せつなが竹千代の頭に触れて黙らせた。話があるらしい。
「当分動けないだろう? 依頼主には私が代わりに報告しておく」
「そりゃ助かります。船は風で動かしてるんですかね」
「ああ。だが風が弱くて、海流に流されているようだ」
「やっぱり」
おいらが駄目になると、最悪流れに乗って大洋まで漂流してしまうか……。今後はおいらが突撃するような仕事は請けられねえな。姫様達も居なくなるし。
「港までは何とかする」
「無理しちゃ駄目だよ。錨を下ろして風が出てくるまで待とう?」
「ていうか、竹千代がせつなを乗せて陸まで飛べば良いんじゃねえか?」
もろはの言葉に、竹千代が尻尾を震わせた。
「流石に今日は疲れたんだぞ……」
「力尽きて冬の海に落ちるのはごめんだな」
こんなやり取りを聞くのも、あと少しで終わりか。
「何笑ってんだよ」
「そんなにとわと二人になれるのが嬉しいか」
「あんたらそういうとこだぞ」
少し、なんだか温かいような気持ちになったのに。
「船動かすから静かにしてくれ」
言うと姫様達は去る。竹千代は残って、寝台の下に座り込んだ。
「もろははそんなんじゃないって言ってましたが、理玖様、本当にもろはに手を出してないんですか?」
「何の話だ?」
「昨夜もろはの部屋を覗いたんだぞ」
誰かが廊下に居たの、気の所為じゃなかったのか。確かに、傍から見ればこれから同衾するように見えるわな。
「……お前普段から姫様達の部屋覗き見してるのか?」
「誤解だぞ! 理玖様が入っていくのが見えたから!」
「そうかい。ま、おいらの否定より、もろはの態度の方が信用できるだろ」
「それはそうかも……だぞ……」
しかし、それで眠れなかったのか。面白くてつい笑ってしまう。
「もろははおいらに父の影を見て」
「?」
「おいらはもろはに娘の夢を見た。それだけさ」
「……よくわからないけど、よく考えたら理玖様ほどのお方がわざわざもろはなんかをお選びになる筈がないんだぞ」
「好きな子の陰口は罷り間違っても言うもんじゃないぜ」
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