宇宙混沌
Eyecatch

夢は終わる、愛は死なず [6/8]

「竹千代……」
 アタシは標的の船が沈んだ方角を見ていた。
 この船は理玖の妖術で自在に動くが、あの怪我だ、今は任せられない。前に進む動力さえあれば、一応操縦桿はある。だが、人間が持つ櫂が海面に届くような大きさじゃない。
「もろは!」
「二人共! 妖術でこの船を前に進められねえか!?」
「無茶を言うな」
「私達はサイコキネシスは持ってないよ~」
「さいこき……? ああ~! どっちにしろ無理なのは解った!」
「姐さん方! 帆を下ろして風で進めば良いんです!」
「なるほど! って、アタシには帆の使い方なんて――」
「俺達がなんとかしますよ」
「本当か!? 助かる!」
 この船の船乗り達は優秀で本当にありがたい。
「理玖の躾の賜物だな」
「せつなが褒めるの珍しいね」
「別に褒めてはいないが……」
 双子は後ろでそんなことを言い合う。
「口じゃなく手を動かせ! ほら、手伝うぞ」
「ああ」
「水平線までは五キロ以上……一里以上あるはずだよ。急いであげよう」
「そんなにあんのかよ!」
 竹千代の名を呼びながら現場を目指す。やがてせつなが大声を出した。
「声が聴こえる」
 全員手を止め、耳を澄ます。
「理玖様~!」
「竹千代!!」
 呼びかけると、向こうもアタシ達に気がついた。
「みんな~!」
 一目散に飛んできて、変化を解く。
「竹千代、無事か?」
「奇跡的に掠り傷で済んだんだぞ」
 その様子に三人でほっと息を吐く。とわが上着を脱いで、竹千代にかけてやった。
「ハラハラしたぜ。お前が居なくなったら、アタシとは誰が組んでくれるんだよ」
「……! 心配感謝する。でも、理玖様は木端微塵かもしれないんだぞ……」
「アイツなら瞬間移動で船まで帰って来たぜ」
「背中の怪我が酷いが、安静にしていればそのうち快復するだろう」
「本当か!?」
 ほっとして気が抜けたのか、竹千代は腰を抜かす。せつなは船乗り達に依頼人の居る場所へ向かうよう指示した。
「俺がもう少し早く気配に気付くべきだったんだぞ。理玖様が死んだらとわにももろはにも合わせる顔が無かったんだぞ」
「なんでアタシも?」
「昨夜理玖様と過ごしてただろ?」
 背後から双子の視線が刺さるのがわかる。顔が熱くなった。
「そっ、それ! 知ってたのか!? バラすなよ恥ずかしい」
「いや、匂いでわかっていたぞ」
「でももろはは何でも顔に出ちゃうし、それが無いってことは、やましい事はないんだろうなとは思ってた」
「何だよお前らまで!」
 アタシは髪をぐしゃぐしゃと掻き回してから、竹千代の誤解を解く。
「旦那とはそんなんじゃねえよ」
「そうなのか?」
「他に話ができる奴が居ないから」
「えー此処に居るじゃん」
「怒らないから言ってみろ」
「なんで何かやらかした前提なんだよ!」
 アタシは口を尖らせる。皆はアタシの言葉を待っている。
「……ちょっと……そろそろ家に帰っても良いかなって……」
「なんだそんなことか」
 せつなの言葉に、身構えて振り向く。けどそこにあったのは微笑みだった。
「私もそろそろ帰ろうかと思っていた」
「えー、二人共帰っちゃうの?」
「とわは修行し足りないんだぞ?」
「うん! まだまだやること沢山あるよ。暫くは理玖も動けないし」
「流石に理玖が寝ている間に置いて帰ったりはしないが」
 言って三人は笑う。
「じゃあ決まり」
「とわ、もろはのように理玖を部屋に入れるなよ。お前は確実に食われる」
「せつなは心配性だなー」
 いつも通りの雰囲気に、アタシも笑みが溢れる。
『案外、他の姫様達も同じ事考えてるかもしれやせんぜ?』
 理玖の言ったこと、半分は当たってたな。
「竹千代はどうする?」
 元々、竹千代は理玖の小間使いをして日銭を稼いでいた。理玖は連れて行けって言ってたけど、竹千代は妖怪退治より、理玖の使いっ走りの方が良いんじゃ……。
「わからないのか?」
 竹千代は起き上がると、腕を組んで言い放った。
「もろはと組むのは俺しか居ないんだぞ」

闇背負ってるイケメンに目が無い。