宇宙混沌
Eyecatch

夢は終わる、愛は死なず [3/8]

「竹千代は?」
「今日はまだ見てないな」
 おいらが尋ねると、せつなも首を傾げた。
「竹千代が寝坊は珍しいな」
「お前がもろはの匂いをさせているのも妙だが。最近多いな」
「色々ありましてね」
「……そうか」
 せつなはそれ以上問い詰めなかった。せつなもこの前船乗りに襲われたことを、おいらが秘密にしてやっているからだろう。口の堅さを信用していただけているようで何より。
「竹千代! もう昼前だぞ起きて支度しろ。一刻後には出発だ」
 部屋に行き、布団の上から軽く踏む。
「ぐえ。り、理玖様……」
「なんでそんなわかりやすく挙動不審なんだ?」
 竹千代は飛び起きると、部屋の隅まで下がって視線を右往左往させる。
「そんなに痛かったか?」
「とんでもございません! すぐ支度します!」
「そうかい。……具合が悪いとかなら、延期するが……」
 竹千代は首を横に振る。おいらは眉を顰めつつも、竹千代の部屋を後にした。

 今回の仕事は初めての試みだ。流石のおいらも、標的の船が水平線近くに見えると緊張してきた。
「旦那~本当にやるんですかい?」
「今更日和[ひよ]るな」
 人間の船乗りに喝を飛ばす。言ってるおいらが一番びびってるけどな。
 万が一姿を見られても良いように、妖術で顔周りの姿を変え、覆面を鼻の上まで上げる。
 今回の仕事は妖怪退治でも、商船護衛でも、水先案内でもない。怪しい商船の調査任務だ。場合によっては掃討を頼む、とも言われている。
 どうも、武器やら何やら、物騒な品物ばかり密輸入しているらしい。目的は不明だが、この国で内乱を起こそうとかその手の類だろう。尤も、既に戦国の世にはなっているのだが。
「外国の高性能な武器が市中に出回れば、何処で何が起きるかわからねえからな」
 幕府や大名が正当な対価を支払って購入し、それが普及する流れなら問題無い。だが、反体制側に格安で武器供与するのが他所の国だとすると――色々勘ぐっちまうやつだ。当然、今回の依頼人はここいらの大名側とあって、おいら達にも報酬や名声の面で旨味があるから引き受けたのだが……。
「俺怖いんだぞ~~~」
 肝心の竹千代[のりもの]がおいらの脚にしがみついて震えていた。
「今回は武器を乗せてる証拠を掴んだら、荷や相手の数を把握してすぐ戻ってくる。お前は向こうの船に乗ったら、おいらの背中で小さくなってれば良いから」
「見つかったらやばいんだぞ~」
「見つからないように、おいらが調べてる間見張るのがお前の役目だろ!」
 涙でうるうるの目を見ると駄目だ。こいつ見た目で得してやがる。
「竹千代がどうしても嫌だってんなら、おいら一人で行く」
 この距離の瞬間移動は、向こうの船に乗り移るだけでかなり消耗してしまうので、できれば避けたかったが。
「気を付けてね」
 この船に待機のとわ様が声をかけてくれる。
「すぐに戻って来やすよ」
 笑いかけて耳飾りを弾こうとした時、竹千代が叫んだ。
「俺も行くんだぞ!」
「そうこなくっちゃ」
 竹千代はなんだかんだ意地があるから嫌いじゃない。化けた竹千代に跳び乗ると、おいらは振り返ってとわ様達に手を振った。

闇背負ってるイケメンに目が無い。