宇宙混沌
Eyecatch

第2章:二人の里帰り(後編) [5/8]

 三日ほどかけて、先の将監が閉じ込められている屋敷まで来た。竹千代はそれが見えない場所まで遠ざかると、此処で待っているように言う。
「何かあったら構わず逃げてくるんだぞ」
「そのときゃ紅を使うよ」
 懐から白い貝を出して見せる。竹千代は険しい顔をしたが、何も言わずに背を向けた。
 見上げれば、木の葉の隙間から満月が見える。
「竹千代は、綺麗だなんて思えないんだろうな」
 これまでもずっと。これからもずっと。

「将監さん!」
「ん? お前は……」
 窓から覗くと、先の将監は足枷を付けられて部屋の真ん中に座っていた。
「化け殺しのもろは様だ! んだよ、退治された相手の顔くらい覚えてろよ」
「覚えとるわい! 何しに来た!? まさか、竹千代がついに儂を殺せと命じたのではあるまいな!?」
「その通りだよ」
 戸の方に回り、中へ。元将監は後退りながら此方を睨み付けた。
「でも、アタシはお前を殺す気は無いんだ」
「何?」
「竹千代の奴、前の仕事の報酬も踏み倒してるんだぜ? それで、一発ギャフンと言わせてやりたいんだよ」
「フン、ならば断れば良いだろう」
「付き合い長いし、色々弱みも握られててそうもいかなくてさ。とにかく」
 髪飾りの中から道具を取り出し、足枷の鍵を外した。先の将監は「信じられない」という顔で此方を見上げる。
「お前さんも、竹千代には仕返ししてやりたいんじゃねえの?」
 外に連れ出す。満月が山の中を明るく照らしていた。
「竹千代は近くの川辺で待たせてある。アタシは流石に殺したくはないからさ、将監さんが先に好きにして良いぜ」
「フン、仲間は殺せぬと言うか」
「普通は躊躇うもんでしょ。将監さんは[]れるクチ? って、前にも竹千代のこと殺そうとしたんだっけ」
 背中を見せた状態で先導する。此方の隙のある言動に、先の将監は油断し始めたようだ。
「どうやってやったの? 毒?」
「その様なすぐに気付かれる手を使うか。呪いだ」
「へえ、随分便利な呪いがあるんだねえ。生かさず殺さずってやつ?」
「呪詛を払わずに放っておけば死ぬ。竹千代はギリギリで呪いと気付いたのか、法師を呼んでいたな。そのままその法師が連れ出したのだろう」
「しかし、自分が仕えてた主人を、それもまだ子供を殺そうとしたなんて。さてはお前、殺し慣れてるな?」
「慣れてはおらん。殺したのは一人だけじゃ」
「誰々? 一体誰を殺したの?」
 先の将監は答えない。足を止めて振り返った。
「もしかして、先代の殿様?」
「……それを知ってどうする」
「こうするんだぞ」
 俺は変化を解く。懐から刀を抜いて、相手の喉を狙った。
「北の方!?」
 一発目は外したが、二回目、そう叫んだ喉に突き刺す。
「……息が出来ないのは苦しいだろ」
 その場に倒れ、何か言おうとしてごぼごぼと血を溢れさせる狸を見下ろした。
「お前はじきに死ねるけど、俺は何日も苦しんで――」
 首から刀を抜く。勢い良く血が噴き出て、俺の着物を汚した。
「父上は、そのまま……」
 俺は霞んだ目を拭って、刀の血を振り落とす。動かなくなった妖狸を置いて、そのまま川まで下った。

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