宇宙混沌
Eyecatch

第2章:二人の里帰り(後編) [4/8]

「その妙な語尾も演技だったんだな」
「最初はな。身寄りのない下働きが、偉そうな口を利いてたら怪しまれるんだぞ」
「偉そうなのは態度に出てたけど……」
 先の将監が幽閉されているという場所まで向かう。竹千代が飛び続けても、旅程は五日ほど延びそうだ。
「それにしても、同じ呪いなら家来が誰か気付いても良さそうなのに。誰も助けてくれないなんて酷いな」
「結局のところ、俺が何かを成して敬われていた訳ではないからな。担ぎ上げるのは誰でも良かったんだぞ」
「……アタシは、」
 笠の下に語りかける。
「ちゃんと好きだぜ、竹千代のこと」
 人間からも妖怪からも半端者扱いされて、アタシは強がってばかりいた。でも竹千代はアタシの強さを認めてくれて、それでいていつも女として扱ってくれた。
「竹千代はアタシの何処が好きなんだ?」
「何回言わせる気なんだぞ」
「何回でも言ってよ~」
「だったらお前が先に言え。というか、[あだ]討ちに向かう途中でする話じゃないんだぞ」
 竹千代は声を低くする。
「もろはは先に帰れば良かったんだぞ」
「一人で行かせるような薄情なことはしねえよ」
「多分、お前が見たら気分が悪くなるような事もするぞ」
「構わねえよ。竹千代の気が済むようにしな。アタシに見られたくないなら、近くで待ってるから」
「……そういうあっさりしてるとこが好き」
「それだけ?」
「それだけじゃないけど、何回も聞かれるなら小出しにするんだぞ」
「それじゃ、訊く度に違うこと言ってくれるの?」
[たわ]け。数える程しか無いわ」
「ちぇー」
「それで、お前は?」
「アタシは」
 少し前に寄って、竹千代の耳を撫でる。
「こうやって運んでくれたりするとこ」
 そのまま言葉にするのはむず痒くて、なんだか微妙な答え方をしてしまう。
「別に、今回は急いでるからお前の為ってわけじゃないんだぞ。まだ飛べるし」
「疲れてねえのか? そういや、武蔵から駿河までも息切れしなくなってたな」
「流石に海賊やってたら体力は付いたんだぞ。元々お前よりはあったけどな」
「一々嫌味な言い方だな」
「すまぬ、そんなつもりはなかったんだぞ。俺、お前がほとんど人間なの、どちらかというと好きだぞ」
 何故だかそう言われるのは気恥ずかしい。アレだ、理玖が好んで朔の日にとわを可愛がっているのに通じる気がする。
「お、お前! それ何かやらしい事する為だろ!」
「理玖様と一緒にするなだぞ。紅夜叉の姿より、いつもの顔の方が好きだって意味だぞ」
「この前不細工って言った!」
「あー……ちょっと口が滑っただけなんだぞ」
「本心じゃんそれ!」
 げしげしと笠の上から頭を蹴る。竹千代は溜息を吐いた。
「そうやって気を逸らそうとしても、俺の怒りは収まらないんだぞ」
「……ごめん」
 一人で行かせるつもりは無い。それは嘘じゃないけど、本当は、復讐なんてやめてほしかった。そんな事しても、竹千代の親父が生き返るわけでもないしさ。
「そりゃそうだよな。二言は無え。竹千代のやりたいようにやれよ」
「一つ言っておくぞもろは
 竹千代の顔は見えないが、その声色はいつになく真剣だった。
「俺はこれまでの事を無かった事にしたいんじゃないんだぞ。そんな事は出来ないしな。でも、黙って理不尽を受け入れたら、俺はまた、何年もそれを胸の内に飼ってやらねばならなくなる」
「うん」
 アタシも解っている。竹千代が本当に欲しい言葉。
「そんなの、生かしておく必要ねえよ」
 復讐を果たせば、きっと竹千代は別の蟠りを胸に飼うことになるんだろう。どっちにしろそうなるなら、竹千代の好きにすれば良い。そんな深い陰ごと、アタシが愛してやれば良い。

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