宇宙混沌
Eyecatch

第2章:二人の里帰り(後編) [1/8]

「着いたんだぞ~」
「よっと」
 俺が地面に降りるより先にもろはが飛び降りた。音を聞きつけて、屍屋の中から獣兵衛様が顔を出す。
「久しいな。元気そうで何より」
「獣兵衛さんも」
 もろはが挨拶している間に、飛行形体からの変化[へんげ]を解く。俺の姿を見て、獣兵衛様は感心した。
「やっと真面目に変化する気になったか。噂通りというか、噂は本当だったと確信できる顔貌[かおかたち]だな」
「そりゃあ、家の事が片付くまで歳を誤魔化してたんだから仕方ないぞ。噂って、理玖様も言ってたな」
「理玖様には俺が教えたんだ」
 なるほど。その手の話に疎そうな理玖様が何故、とは思ったが、そういうことか。
「噂って?」
「俺の母上は色気のある美人だったらしいぞ」
「だろうなあ」
 もろはが隣に来て、顔を近付ける。栗色の瞳を見つめ返した。
「なんだ、ただの帰省と聞いてたが、里帰りだったのか?」
「えっ」
「最初はそうじゃなかったけど、結果的に実質そうなったんだぞ」
「なんで判ったんだよ!?」
「距離が妙に近い」
 言われてもろはが慌てて離れる。
「別にわざわざ避けなくても……」
「だって! 獣兵衛さんにバレるってことは、せつな達にもバレちまうだろうが!」
「隠して暮らすつもりだったのか?」
「いや俺はそんなことは。第一あいつ等は鼻が利くんだから、隠し通すなんて無理な話だぞ」
「やだやだ恥ずかしすぎる……」
「全部お前から言い出したくせに」
 一人で喚いているもろはは放っておき、中に入って土産物を出す。
「良かったな」
「ありがとうございます」
 獣兵衛様は俺の気持ちを知っていた。協力や助言はしてくれなかったが、邪魔も反対もしないでいてくれた。
「でも少し複雑なんだぞ」
 俺がもろはに出会う人生には、その前に必ず、あの忘れられない苦しみがある。俺が家を追われなければ、万が一出会っていても、お互い好きにはならなかった筈だ。
「……なんにせよ、俺にはもう後ろ盾が無いし、しっかりせねばな」
 獣兵衛様は眉を下げる。
「甘えられる相手がずっと居なかったのもあるが、お前は甘えるのが下手だからな。自分の嫁くらいにはちゃんと甘えろよ」
「甘えないようにしてるつもりは無いぞ」
「そうか。まあ、誰か一人に甘えすぎるのも問題だがな。うちに若君を甘やかす余裕があれば良かったんだが」
「これで良かったんだぞ。此処に居たおかげで、結局見つからなかったのだし」
 その辺に置いてあった雑巾を手に取って、窓枠を拭く。
「俺達が居なくなって、商売上がったりでしょう?」
「俺だけならなんとか食えるよ。理玖様の右腕を辞めてこっちに戻ってくるのか?」
「右腕なんて大層な事はしてないぞ。まあ、船を降りる必要が出てきたら、その時は武蔵に帰ってくるんだぞ」
「何の話?」
 落ち着いたのか、漸くもろはが入ってくる。
「別に」
「なんだよ、お前相変わらず秘密主義だな」
 獣兵衛様が笑う。
「喧嘩するほど仲が良いってか」
 言われて、もろははまた赤くなって黙り込む。
「この後はまっすぐ帰るのか?」
「狸穴島にも寄るんだぞ」
「そうか。……気を付けて行けよ」
「承知」
 そのやり取りに、もろはが不安げな顔をした。後で説明しておくか。
「菊之助と八衛門に会ったらすぐ帰るんだぞ」
 本当は二度とあの地を踏むつもりはなかった、その理由[わけ]を。

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