第6話:世界の隅がお似合い [5/5]
おいらは井戸の小屋の戸を開けた。日はとっくに暮れている。
「ずっと此処で見てる気かい?」
「ああ。悪いが俺だけでも帰らせてもらうぜ」
かごめ達が待ってる。そう言えるだけの未練が、おいらにもあったなら。
「構いやせんよ」
犬夜叉の隣に並ぶ。井戸からは何も聞こえない。
「……お前、どうしてこっちに残りたいんだ? とわは帰りたそうにしてるじゃねえか」
「ありゃりゃ、気付かれてましたか」
「白々しいんだよ」
「とわ様には、まだ言わねえでほしいんですけどね」
おいらは計画の触りを話す。犬夜叉は顔を顰めた。
「贅沢な悩みだな」
「と言うと?」
「俺は半妖だからな。その所為で何年も子供が出来なかった」
「でもそれはとわ様も同じでは?」
「だから運が良いって事だよ」
「そうですか。なら、尚更此方で産ませたいですね」
犬夜叉が強く拳を握った音が聞こえるくらいだった。顔を見ると、牙を剥いている。
「その程度の覚悟しか無いなら孕ませるんじゃねえ! 第一お前ら、祝言挙げる前に――」
「それは反省してますって」
「してねえだろ! 俺達はこっちの世界に居たらいけねえ存在だ。とわも向こうに戻って、りんやかごめや楓のババアに――」
「世界の異物と言うなら、あんたの嫁だってそうだろ」
思いの外冷たい声が出て、自分でも驚いた。生まれ変わってから、言葉を取り繕うのが益々下手になった気がするんだよなあ……。
「とにかく、あんたと言い争う気はありませんよ。帰りたいなら帰るがよろしい。ただ、おいら達のことはおいら達で決めます」
「……そうかよ」
おいらは小屋を出ようと踵を返す。戸を開けたところで、犬夜叉が言った。
「お前、本当に自分の居場所が何処にも無いなんて思ってるのか?」
「……何故そんなことを?」
手と足を止めて問う。そんなこと、誰にも吐露したことが無いのに。とわ様にもだ。
「輪からはみ出てただろ。俺が来て手狭になったからかもしれねえが」
「そりゃあ、おいらは中心で咲くような花じゃないので」
そういうのは他の誰かの役割だ。とわ様とか、犬夜叉とか。
「だからって、一生誰かの添え物であり続けるのか?」
「真ん中で目立ちたいとは思ってやせんしね。それに、居場所ならあります」
とわ様の隣なら、何処でも。
「……皆はお前のことも心配してる」
おいらは黙って戸を閉めた。
その皆ってのは誰なんだ? それは、「何かあればとわが可哀相だから」おいらの安否が心配なのでは?
愛されたことが無い人生だった。愛してもらえるだけの資格も価値も無い木偶人形だった。
この世に生まれ出た瞬間から、誰かに愛されてきた者には解るまい。この身の消滅を望まれる辛さも、それでいて便利屋のように使われる虚しさも。心にかけてくれたと思った相手に裏切られた時の、やり場の無い想いも。
そんなものを味わうくらいなら、最初から最後まで、日陰者で構わないのさ。
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