第7章:一角の甪端 [1/4]
信用されていない。殺生丸の考えることは何もわからないが、それだけは解った。
今回は何もされなかったが、寝ている間に襲われたら、或いは寝ていなくてもより多くの毒を瞬時に入れられたら。今度こそ本当に命は無いだろう。
殺したいくらい憎まれていても、仕方がないとは思っている。麒麟丸はせつなを殺した。そしておいらの血肉はどうやっても麒麟丸と同一だ。
だからと言って、殺されるのも、死なないギリギリで甚振られ続けるのも、御免だ。おいらはとわ様の前で二度も死ぬわけにはいかない。
駆け落ちしよう。もうそれしかない。とわ様の身の危険は増すかもしれないが、少なくとも、おいらが身内に殺されるなんていう惨状を目の当たりにするよりましだろう。
「……家に居る時くらい薙刀仕舞ってくれねえか?」
「私はいつも武器は手放さないようにしている」
翌日。流石に病み上がりのおいらに、あの小妖怪は何も言いつけずに何処かへ行った。せつなは今日も休みらしい。殺生丸から何か言い遣ったのか、本を読んでいるおいらをずっと監視している。
「そんなに見られても、何も出てきやせんぜ?」
「解っている」
「ねえ~理玖何読んでるの? それ何語?」
反対側にはとわ様。おいらの肩に顎を乗せて、頬を膨らませている。
「南蛮の方のですね」
「理玖って何ヶ国語解るの?」
「さあ」
「さあって……」
「だっておいら、自分で勉強したわけじゃねえですから。気付いたらどれも読み書きできて……」
それは何故だろう。今までは何も疑問に思わなかったが、確かに妙だ。
やめた。おいらは本を閉じる。本を読むふりをして計画を練っていたが、もっと集中して考える必要がありそうだ。
「眠くなってきたんで寝ます」
「わかった。夕方起こせば良い?」
「お願いします」
おいらの睡眠が不規則なのは、とわ様もせつなも承知だ。借りている部屋に戻る。
さて。おいらは部屋の中央に座り込んだ。
六百年より前の麒麟丸の記憶は、別にあっても良い気がする。それより前、おいらは麒麟丸と一体だったのだから。その間に覚えた言葉もあるだろう。
だが、何か気がかりだ。
昨日の事を思い返す。殺生丸はおいらに毒を盛った。せつなはおいらを介抱していた。戻って来た殺生丸はおいらの為に妖怪を狩ってきていた……。
ただおいらを殺すだけなら、そんな手間はかけない筈だ。第一、こんな家の近くで殺せばとわ様にすぐバレる。知られれば娘に一生恨まれるような危険を冒すだろうか。
おいらを見下ろす殺生丸の無表情。せつなの苦しそうな顔。少なくともせつなには予想外で、不本意だったのか。だが何か知っている風だった。
手掛かりは他に何がある? せつなは、このところは遠い村まで妖怪退治に出かけていた。その前に殺生丸とせつなが一緒に居たのは……。
「……おいらが酒飲んで寝てた日だ」
せつなは退治屋の仕事に行った筈なのに、皆で一緒に帰ってきた。そういえばあの日、妙な違和感を感じたような。
おいらに言えない事……。おいらに知らせない方が良い事……。
「そういやとわ様も……」
直前まで男ばかりの船に乗っていたのに、一体いつ誰に腹の子を診てもらったんだ?
「…………」
頭を使うと本当に眠くなってくるな。おいらは一つ伸びをすると、胡坐をかいたまま瞼を閉じた。
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Written by 星神智慧