宇宙混沌
Eyecatch

第9章:一緒に帰ろう


 村を一巡りして帰ってくると、小妖怪と殺生丸が飯盒炊爨[はんごうすいさん]をしていた。
「どういう状況?」
 おいらの代わりにとわ様が尋ねる。
「……くろ様の為に狩ってきた妖怪を捌いておったらせつなに追い出された……」
 小妖怪が答え、焼いた食べかけを再び齧る。
「父上は何してんの? こういうの食べないよね?」
「見てわからぬか。一々殺生丸様に聞くな」
「邪見冷た~い」
「厳しいと言え」
 殺生丸の腕の中には、また犬の姿に戻ってしまった姫君が居た。妖怪を煮て[ほぐ]して与えているらしい。
「あれ? じゃあ育児期間延長?」
「流石にそれはなかったわい。正直、殺生丸様が居ない分はほとんど御母堂様の管轄になるから、早いとこ復帰してもらいたいんじゃろう」
 今は理玖まで休業してるし、と睨まれる。
「じゃあ最後のお世話なんだね」
「最後の?」
「ああ、理玖居なかったっけ。父上、晴れて仕事に復帰だよ。いつから?」
「夜が明けたらすぐじゃな」
「早いね~。また全然お話できなかった」
「……おいらの事は見張ってなくて良いんですかい?」
 尋ねると、黄色い視線が上がる。
「話したい事があるなら今聞く」
「流石は殺生丸様、ご寛大でいらっしゃる」
 冷えるのと、食べられないのとで、とわ様は屋敷の中に戻った。おいらは、どう見ても集めすぎの妖怪の死体消費を手伝いにかかる。
「とわ様を連れて船に戻ります。よろしいでしょうか?」
「好きにしろ」
「エッ? 何の話?」
「もう終わった」
 頭の上に疑問符を浮かべている小妖怪の様子を笑い、おいらも焼肉を戴く。
「殺生丸様~? 邪見の居ない間に一体何が?」
「…………」
「また無視!? まあ、殺生丸様嬉しそうだから良いぐぇ」
 やにわに殺生丸が脇に置いてあった人頭杖を掴み、小妖怪を殴る。
「隠しきれると思っていたのか?」
「何をです?」
 殺生丸の問いに、つい白を切ってしまう。でもおいらは嘘が下手だ。やはり殺生丸を騙くらかすのは無理だったか。
「その妖力[ちから]とわとその子を守れぬ筈がない」
「いやぁ、里帰りしたいって言い出したのはとわ様ですよ。おいらもたまには気兼ねなく息抜きしたいですしね」
 おいらだって全て最初から計算ずくではない。妖力がなくなったなどととわ様についた嘘をまだバラしていないことや、せつなへの嫌がらせで色々言ったことは、否定しないが。
「殺生を嫌う麒麟が狩りをしてまで強めたようだが」
「そりゃあ腕っぷしでとわ様に負けるようじゃ、男衆にも示しがつかんでしょう」
 実際、強さというものは幾らあっても足りはしない。麒麟丸の様に強さそのものを追い求めている訳ではないが、最低限とわ様や皆をいざという時守れるだけの力は欲しかった。
「普段は退治したついでに食べてるだけですよ」
 殺生丸は鼻を鳴らすと、続きを待っている末娘の口に解した肉を流し込む。
とわにわざわざ選ばせずとも良いものを」
「何もかもお見通しですかい」
 最初から、とわ様を船に連れ帰ることは簡単だった。おいらがそう望めば良いだけだ。
 けれど、おいらはもう一度、とわ様自身においらを選んでもらいたかったのだ。それは共に居ることが、あまりにも当たり前になってしまったからかもしれない。
[こす]いところは麒麟丸のままだな」
「否定はできやせんね。誉め言葉と受け取っておきましょう」
「この殺生丸に比肩するのは獣王くらいのものだ」
「……?」
 おいらは首を傾げた。こいつ、本当に褒めているのか?
 殺生丸は満腹になったらしいくろの口を拭い、横目でおいらを見た。
「西国を任せる」
「任せるって……」
「あー。殺生丸様よっっっぽど御母堂様の下で働くの嫌なんですね。って痛い!」
 小妖怪が踏んづけられる。
「私は東が良いだけだ」
「屋敷に近いから?」
 返答は無い。それが答えだ。
 おいらは思わず笑ってしまう。殺生丸がおいらなんかに世辞を言って、管轄の交換を申し入れるとは。
「内海だけで勘弁してほしいですね」
 おいらは妖怪の骨を置いて、次を火にかけた。
「西国の泰平については保証できやせんが、そちらは好きな所を治めれば良いんじゃないですかい?」
 目線を殺生丸に向ける。奴は少しだけ、笑っている様に見えた。
「東雲の麒麟丸はもう何処にも[]りやせんからね」

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目次

  1. 実家に帰らせていただきます
  2. 父親
  3. Never come true
  4. 貴方だけのお姫様
  5. 言い訳できない
  6. ましな方の地獄
  7. 一角の甪端
  8. 溺れていたのは
  9. 一緒に帰ろう

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