りんは興味津々 [2/4]
「ところで理玖さんって寝てる間もお化粧してるの?」
「目のこれですか? これは化粧じゃないんですよ」
「えっじゃあ何なの?」
奥方の前だというのにとわ様がじっと覗き込んできて、まごついてしまう。
「とわ様、近い……。殺生丸様のお顔に浮き出ている模様と同じです。妖力で出てくる痣ですね」
「そうだったんだ。消せないの?」
「やればできますが面倒なので」
「それって、殺生丸様も頑張ればお顔の模様消せるってこと?」
急に奥方の顔がキラキラしだした。
「殺生丸様は人間に変化されているのですし、それはそうなのでは……」
「今度帰ってきたら頼んでみようっと!」
すまん殺生丸。なんか面倒事を増やしたかもしれねえ。
「理玖さんは変化して人の姿になっているのではないの?」
「あ、それ私も気になってた」
「おいら、角から成長した姿がこれなので、今見えているのが原型ですよ」
「そうなの!? じゃあ何も心配することなかったね」
「そうだね」
「? 心配って、何の?」
「父上に、赤ちゃんがお腹突き破って生まれてくるぞーとか脅かされてさあ」
「…………」
古い記憶が蘇る。まだおいらが「理玖」ではなかった頃の記憶。
「すみませんが、少し二人にしていただけませんか」
奥方は何かを察したように頷いて、席を立つ。
「どうしたの急に」
こめかみを汗が流れた。
止まらない血。獣の耳が生えた赤ん坊の鳴き声。犬の大将とその奥方からの悔やみの手簡。是露からの励ましの言葉。
何故忘れていた? 簡単だ。思い出したくなかったから。麒麟丸が娘に固執し狂ってしまった原因を。己が人間という脆弱な生き物を憎んだ理由を。
半妖の娘も自分より先に死んでしまう。だからそれまでに沢山の景色を見せてやりたかった。最強の妖怪の娘であると胸を張らせてやりたかった。こんな悲しい思いをするくらいなら、人間など二度と愛するものか。胸の奥底に焼き付いた麒麟丸の記憶に気付いてしまうと、もうそこから目が離せない。
殺生丸は知っていたのだろう。何かの折に「そういう事があった」と両親のどちらかから聞いたとは、容易に想像できる。例えば、人間の奥方を娶った時に御母堂から、など。
「……命が惜しければまだ間に合います」
おいらは汗を拭って、とわ様に向き直る。
「子を産むのは命懸けです。父親が誰であれ。母親が何であれ」
「そんなの最初から解ってるよ。そりゃあ、父上の脅しは迫力あってビビったけどね」
「とわ様……」
とわ様がおいらの手を握って微笑む。おいらは、どんな結果になろうと己の責任として受け止めることを誓って、その顔に唇を寄せた。
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