よりにもよって [2/3]
「まだ子供じゃねえか」
おいらは火鼠の衣を開けたところで手を止めた。
流石にここまでされると「女を売る」の意味が解ったのか、もろはは顔を服と同じ色にして固まっている。泣いたり抵抗したりしないところは、意地があって嫌いじゃない。
だが流石にこの、仰向けに寝かせた程度でぺったんこになる胸では、おいらの方が興奮できねえな……。
「は~……。駄賃は払ってやるから止めねえかやっぱり」
もろははこくこくと頷く。馬乗りになっていたところを退いてやると、もろはは慌てて服を着直した。
おいらは気晴らしに煙草を吹かそうと、火を貰いに表に出る。
「り、理玖……」
「とわ様……」
来ていたのか。気付かなかった。よりにもよってこんな時じゃなくても。
「早かったですな」
獣兵衛が訝しむ。
「流石に興が乗らんよ」
「左様ですか。では部屋代は結構です」
おいらは煙管を仕舞い、代わりに小銭を出した。
「これはもろはへの駄賃な。後で渡しておいてやってくれ」
「奴の借金から引いておきましょう」
とわ様とせつなの視線が痛い。こりゃ、何をしていたか既に聞いてるな。
「とわ様、今日は一体どのようなご用件で?」
「もろはが退治の依頼が進んでなくて上から締められてるって言うから、手伝いに来たの」
「邪魔だったようだがな」
二人共言葉に棘がある。仕掛けてきたのはもろはだぞ?
「そんなことは。おいらとしては、頼んでる妖怪退治をやってくれる方が有り難いですしね」
「締めてるのも理玖か……」
「ゔっ」
否定はできない。必死に言い訳を探していると、背後で獣兵衛が小さく笑った。
「理玖様も難儀なものよ」
もろは達が今日の仕事に出て、理玖様も帰った後。獣兵衛様がそう漏らした。
「というと?」
「とわには嫌われたくないのだろうな」
「なんでだぞ?」
「恐らく一目惚れだろうからなあ」
「ヒエ。なんでわかったんですかだぞ?」
「理玖様との付き合いも長いが、彼が『良い女』なんて言ったのは後にも先にもとわだけだ。理玖様がとわに初めて会ったその日のことだ」
「俺にはとわの何処が良いのかさっぱりなんだぞ」
「お前はもろはの方が良いものな」
「なんでそんな話になるんだぞ!?」
獣兵衛様は声を上げて笑う。
「まあ、理玖様は多少、真っ直ぐな愛し方を知った方が良いだろうな」
「このままだと三人共殺されるんだぞ」
「理玖様の依頼が終わるまでは大丈夫だろう」
「それでのろのろやってるんだぞ? そのうち痺れを切らして、理玖様の方から仕掛けてくるんだぞ」
「だろうな」
俺は溜め息を吐く。実質理玖様に食わせてもらっている立場では、面と向かって彼の意に背くことはできない。
「よりにもよって、なんでもろはが虹色真珠を奪ったんだぞ」
それさえなければ、こんな綱渡りをする事なんてなかったのに。
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