第6話:みんな何処か欠けている [2/4]
せつなのどこが好きなのか。何故せつなじゃないと駄目なのか。
顔は勿論好みだった。寧ろ、あの美貌に魅入られない奴の方が珍しいだろう。それでも初めせつなに纏わりついていた他の男達は居なくなった。当たり前だが、せつなの方が人間の男達より強かったからだ。俺はその強さが好きなのか?
「は~」
頭を掻く。愛矢には悪いけど、悪口の練習でもしておくか。
「愛矢のことがそんなに嫌いか」
「嫌いなわけじゃないけど、妹にしか見えないっていうかさあ……って、ええ!?」
話しかけてきたのは当のせつなだった。
「せつな!? いつから此処に!?」
「『この仕事の依頼者は愛矢なのか』辺りから」
「ほぼ全部聞いてたのかよ……」
「すまない。理玖は気付いていたようだが、なんとなく入りづらくて」
せつなは手に持っていた道具を渡してくる。
「片付ける時に間違って持って行ってしまった。翡翠のだろう?」
「ああ、俺も気付かなかった。ありがとう」
長い沈黙が流れる。先にそれを止めたのは、せつなだった。
「男なんて、女なら誰でも良いのだと思っていた」
「その理由は?」
「大抵の男は私を見ると目の色を変える。私の祖父は同族の正妻が居たのに人間にも手を出した。お前から聞く弥勒法師の話もそうだし、とわにちょっかいをかける理玖を見てもそう思った」
「ごめん、父上は最悪の例だから……」
「けれどそうではないのだな。理玖はとわ一筋だし。お前は愛矢のことは、『妹』か」
せつなは視線を下げる。
「無理に仲を取り持とうとして、悪かった」
「謝られる事でもない気はするけど……」
何の話をすれば良いんだろう。俺はお前が良い? いや、流れとして今言うのは不自然じゃないか? 俺がその理由を解っていないのに。
「……せつなは好きな男は居ないのか?」
「居ない。居たこともない」
玉砕じゃん、俺。項垂れた俺の目を、今度は顔を上げたせつなが見つめた。
「だから、誰かが本気で言い寄ってくるなら、考えなくもない」
「……本気だ」
だったら今唾を付けておかなくては。そんな打算的な考えでそう言った。こういうところだけ年の功が出るのもどうなんだ。
「俺はお前が良い。その言葉に嘘はない」
それでも、自分が今言葉に出来るだけのことを吐き出そうとした。
「今はまだちゃんと理由を言えない。お前をどうこうしたいとかも思ってない。けど、せつなが他の男に嫁ぐのは嫌だ」
「そうか」
せつなは一歩離れる。踵を返して言った。
「私も誰か他の男に嫁ぐつもりは無い。翡翠の覚悟が決まるまで、待ってる」
せつなは部屋に駆け戻る。俺はその場にしゃがみこんで、顔を覆った。
「恰好良すぎるんだよなあ」
きっとそれも理由の一つだ。そういう小さな理由が積み重なって、大きな気持ちになっているのかもしれない。
「言葉にするのが大変だ」
でも、せつななら、言わなくても態度で示せば、解ってくれる気がした。
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