第6話:みんな何処か欠けている [1/4]
「ご苦労さん」
道具作りの作業を終えて部屋に戻ると、その前で理玖が壁に背を預けて待っていた。
「終わるの待ってたのか?」
「今日は寝ないんでね」
「……仕事の話ですか? せつなの話ですか?」
「仕事だ。けど、話したいならせつなの方でも構いやせんぜ」
俺ははあ、と溜息を吐く。
「理玖さんが話したいんだろ?」
「別に。竹千代の方が先に上手くやってくれそうだし、一人行き遅れそうになったらせつなも焦るだろう」
「それはどうかな」
俺は苦笑する。理玖は妖しい笑みを浮かべて振り向いた。
「おいらはCupidじゃねえからな。船に夫婦がおいら達だけってのが居心地悪かっただけさ。ま、竹千代に先越されたくなければ、本腰入れないとまずいと思うがね」
「別に早く結婚したら偉いとかじゃないだろ」
てか、竹千代ともろはが結婚? 良い相棒同士だとは思うけど、どうやってもそんな仲には見えないんだよな……。
「Cupidと言えば、そいつを思い起こさせる名前の姫様が居てな。愛矢姫って言うんだが」
「愛矢を知ってるのか?」
「前にも会ったことがあるって、この依頼を請けた時に思い出しましてね」
それは、つまり。
「この仕事の依頼者は愛矢なのか!?」
「ま、そういうこと」
理玖はにっこりと笑ってから、すぐに真面目な顔になる。
「愛矢は退治屋に下げ渡した菊十文字を取り返してくることも望んだ。まるでおいらに退治屋の様子を偵察させるか、或いは嫌がらせ目的でな」
「……それでわざわざ刀を打たせたのか」
侍の振りをするだけなら、一時的に刀を借りれば良いじゃないかと思っていたが、贋作を献上するつもりか。
「あの姫様が菊十文字に思い入れがあるようには見えねえ。気にしてるのは退治屋の方だろう。心当たりあるんじゃねえか?」
「…………」
やっぱり諦めきれていないのか、愛矢。
「……理玖さんは、とわのどこが好きなんですか」
「顔」
「即答でそれかよ」
「じゃああんたは、愛矢にもっとましな答え方が出来たのかい?」
言い返せなかった。どこまでお見通しなのだろう。
「もちろん、ちゃんとした理由もある。けどおいらがとわ様の母上に同じ事を訊かれた時、おいらもその場では答えられなかった」
理玖は俺を安心させるように、優しく微笑んだ。
「今は言葉に出来ねえかもしれねえが、その想いが本物なら、いつか他人にも解ってもらえるようになるさ」
「その『いつか』を、俺の場合明日に間に合わせないといけないんじゃ?」
「明日仕留めたらそうなるな」
俺は二回目の溜息を吐く。今夜どうにかしろって?
「ま、最悪突き放す演技の練習でもしとけば良いんじゃねえか?」
「愛矢を無意味に傷付けたくはない」
「どちらかを選ぶ以上、それは仕方ないだろ。おいら達からしてみれば贅沢な悩みだねぇ」
「俺達って、とわと理玖さん?」
「竹千代とおいら」
「竹千代がもろはのこと好きだって本当かよ? なんか無理矢理くっつけようとしてるみたいに見えるんだけど」
理玖は声を上げて笑った。
「そりゃあ逆だな。竹千代は随分長く、もろはのことをおいらに紹介してくれなかったんだぜ? その時は理由がよく解らなかったが、あの分だと好きすぎて自分からも遠ざけてたって感じだな」
「以外と面倒くさい奴なんだな、竹千代は……」
「かなり根に持つ奴さ」
話は終わったという風に、理玖は踵を返す。
「だからこそ、もろはくらいあっさりした奴が隣に居てくれねえと困るんだろ」
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