まだ愛が足りない [4/4]
色白の肌が赤く、或いは紫に色を変えていくのを見ていた。そうしているのはおいらだ。
「理玖……」
蕩けた表情も、甘い響きの声も。今は全部おいらのものだ。他の誰にも見られたり聞かれたりしてたまるか。
「痛いです?」
「ううん、大丈夫……うっ、あ、」
腰を打ち付けながら、とわ様の胸元に、もう何個目かわからない痕を増やす。肌を吸うと感じるのか、中が締まって気持ち良い。
子を成す行為がこんなに心地良いものだったとは。心地良い、という表現が正しいのかもわからない。ただそこにあったのは、理性を失わせる程の快楽と、果ての無い愛しさだけだった。
快感の方には限度があったのが幸いだ。中に精を吐き出してからとわ様の顔を見ると、目尻には涙が光っていた。
「綺麗だ」
思わずそう呟いてから、我に返る。
「とわ様、大丈夫ですか? 痛かったり嫌だったりしたなら言ってくだされば――」
「大丈夫」
とわ様は自分で涙を拭って、おいらに笑いかけた。
「勝手に出ただけ」
それが本心なのかどうか、おいらには区別がつかない。とわ様は人並みに隠し事をされるお方だ。
「そうですかい」
ただ、今この場では、おいらに心配をかけさせまいとしている。だったらおいらも、心配しているような素振りは見せないだけだ。
「眠くなっちゃった」
「実はおいらもです」
「寝よう。皆も理玖のこと休ませる為に言ってくれたんだもん。残りの雑魚はなんとかしてくれるよ」
とわ様の腕が首に回る。おいらはそのまま抱き抱えられるようにして、とわ様の胸を枕にして眠った。
日が昇るまでには目覚めて、まだ眠っているとわ様に簡単に着物を着せた。こんなに長く寝たのはいつ振りだろう。自分も服を着、髪を結い直して部屋を出る。戦闘は夜の間に終わったのか、静かだ。
「あっ、旦那……休めましたかね」
「ああ」
すぐそこで船乗りの一人と出くわす。状況からして何があったか察している顔だ。
「とわ様の部屋には行くんじゃねえぞ」
「滅相もない」
せつなが居たときは皆、せつなの気を引くので必死だった。今はとわ様が紅一点だから、男ときたら見境無しにとわ様に乗り換えて。誰か手を出そうとする奴が居たら、見せしめに鱶の餌にしてやろうか。
……いや、それじゃやることが焔の野郎と一緒だな。粋じゃねえ。
でも、解っていても止められないのだ。
「……まだ愛が足りねえって事ですかね」
あの時理解したと思ったのに。愛というものには、まだまだその先があるようだった。
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Written by 星神智慧