まだ愛が足りない [3/4]
肉体の変化に対応や気持ちが追いつかないことは多々あった。臓腑が出来たのは良いが、麒麟丸に似て毒や薬に弱いものだった。麒麟丸が常に妖力を流して保てていた体力も、自分で食事を摂らなければ尽きてしまう。
勿論、本当の妖怪となったおいらは、人間よりはずっと強い。食事も毎日は要らないし、睡眠は相変わらず殆ど不要だ。
それでも数日に一度は食事を……他の生き物を喰う必要があった。直接妖気や生気を相手から奪い取って妖力や体力を回復する妖怪も多いが、生憎麒麟丸はほぼ毎日果物をおいらに採ってこさせていた。
「これで良いか」
激しい戦闘の後、甲板に転がっていた雑魚妖怪の死体の中から、傷みがましな物を選ぶ。さっきまで襲ってきていた敵なのにも拘らず、おいらが妖怪を貪っていると人間達は良い顔をしない。人間を喰うより、人間にとってはましだろうが。
しかしそれはとわ様も同じだった。とわ様に見られぬよう、死体を手に物陰に消えようとして、反対側の手を掴まれる。
「理玖も一緒に食べよう」
「とわ様、妖怪の血の臭いがすると食事が美味しくないって仰ったじゃないですか」
「今日は朔だし、火を通せば大丈夫だよ」
丸め込まれて、共にそれぞれの食事を用意する。確かに、生で食うよりこっちの方が美味いな。手間はかかるが。
先に食べ終えて、とわ様の黒くなった髪を眺める。とわ様は、髪が長くて黒い方がお似合いだ。それが、とわ様が人間になった時にしか見られないこと、とわ様と同じ顔のいけ好かない妹姫はいつもそうであることは、皮肉だが。
「おいらの顔に何か付いてます?」
食べ終えて顔を上げたとわ様を誂う。
「じろじろ見てたのは理玖の方でしょ」
「こりゃ失礼。いや、髪が伸びて随分と可愛らしくなられて」
「朔だからね」
「普段もですよ。初めてお会いした頃は、結べもしやせんでしたが、あれはあれでお似合いでしたねえ」
愛らしいとは程遠かったが。
「長いのと短いの、どっちが好き?」
それを知ってどうするのだろう。
「おいらは、とわ様がどんな姿形をしていようと愛しておりますよ。それより、おいらの好みを気にかけていただける程、愛されていたなんてねえ」
とわ様は頬を染める。もしかして、言えばその通りにしてくれるのだろうか。
思えば銀色真珠だって、欲しいと言ったらくれたのだ。試してみるか。
「今晩、とわ様さえ良けりゃ、おいらが寝所の番をいたしましょう」
天守のおいらの部屋で少し寝るつもりだったが、やめた。
「それとも、とわ様も一緒に起きてますかい?」
「……うん」
その意味を解っているのだろうか。考えたって答えは出ない。だからその手を取って、とわ様の部屋に連れ込んだ。窓が無く真っ暗なので、一つだけ明かりを灯す。
暗がりの中で抱きすくめても、返ってきたのは温かい抱擁だった。寝台に押し倒しておいらが跨っても、悲鳴すら上げなかった。いつもの啄むような口吸いより、もう一歩踏み出して口の中を弄っても、拒絶は無かった。
「良い匂いがする」
唇を離して指で拭っていると、とわ様は言っておいらの肩口に顔を埋めた。
「今夜は鼻が利かないんじゃ?」
「その筈なんだけど、なんだかいつもより理玖の匂いがする」
顔を擦り付けるのをやめさせて、今度は額に、瞼に、そしてもう一度唇に口付けを落とした。
とわ様の指がおいらの後頭部を弄る。髪紐が解かれたのと同時に、おいらの箍も外れた。
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Written by 星神智慧