宇宙混沌
Eyecatch

まだ愛が足りない


 この手でとわ様の首を絞めた時の、あの恐怖に見開かれた瞳。その中に写るラベンダー色の目の男。
 とわ様が生きるも死ぬも、おいらがこの指に力を込める具合で決まるのだ。それはまるでおいらと麒麟丸のようだった。
 麒麟丸は、妖術をかけるのをやめれば、おいらなんてすぐに土塊[つちくれ]にできた。なのにそうしなかった。
 結果的にそれでとわ様を守れたのだから感謝している。でも何故だ。思い通りにできる相手を、そうしないなんて。

「……最悪の夢見だ」
 窓の外から、まだ昇らない太陽の光が差し込んでいた。廊下を誰かが駆けてくる。
「理玖! 朝だよ! 船出す準備しないと」
「起きてますよ」
「今日も寝なかったの?」
「少しは寝ました」
 椅子の所まで来たとわ様の、さらしが見えるほど[]けた着物が目に入る。
「とわ様」
 いつもこの着方じゃないかと思いつつも、素直に気持ちを口にした。
「男ばかりの船の上、おいらも常にとわ様のお側には居られやせん。妖怪だけでなく人間にまで襲われそうな格好はお控えください」
「わかった」
 とわ様も素直に襟を正す。意外な殊勝さに驚いていると、着物を整え終わったとわ様が顔を上げた。
「……ほら、準備準備!」
 ぱっと踵を返したとわ様の白い頬に、僅かな赤みが差していたことを、おいらの目は見逃さない。まだ椅子に座ったまま、目を覆うようにこめかみに指を置く。
「……朝から気分にさせられるのは辛いな」
 しかし、焦ることはない。もう此処には煩いせつなも、囃し立てるもろはも居ないのだ。おいら達の好きなタイミングで、好きなことをしようじゃねえか。

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