宇宙混沌
Eyecatch

まだ愛が足りない


 麒麟丸はおいらが欲しい物をずっと持っていた。
 独立して動く心臓。
 六百年前、麒麟丸から分け与えられたのは角の血肉のみ。他は全て麒麟丸の妖術で形作られ、動いていた。口から取り込んだ物は妖力で分解吸収できたが、臓腑が一切無い身体は、生き物としては紛い物と言う他なかった。
 それは遂に、角から再生したおいらには備わっていた。今のおいらはあの頃とは違う。どちらかというと、右腕だけの状態から自力で人形[ひとがた]まで成長した、希林理の状態に近い。おいらは残された角から自らの妖力と、分け与えられた魂魄を使って、心の臓から何からを構築したのだ。
「ドキドキ言ってる」
 他の姫達が東に帰り、とわ様だけが船に残った後。空気が澄んだ夜に二人で星を眺めていて、とわ様がそんな事を言い出した。
「理玖の鼓動かな? 具合悪いの? 前はあんまり聞こえなかったけど……」
「そりゃあおいら、麒麟丸の心臓で動いてましたからね。今夜は、とわ様の美しさに当てられちゃいましたかね」
 言って少し伸びた銀の髪に触れれば、とわ様の頬が赤くなる。おいらも、なんだか股の辺りがぞわぞわとした。
 そういや子を成す器官も構築されたのだった。りおんお嬢様の事が思い出される。あれは死ぬまで一切笑わなかったけど……おいらにとっても、可愛い娘だった。笑ったら可愛いだろうなと思っていたし、実際愛らしかった。
 欲しいな。りおんのようなものが欲しい。きっととわ様も可愛がってくれる、愛らしい生き物が。
 そんな漠然とした欲望がおいらを支配した。
「とわ様」
 そのまま指を顎に移動させ、上を向かせる。顔を近付けても、とわ様は逃げなかった。
「……っ」
 唇を離すと、とわ様は俯いた。
「すいやせん。美味しそうだったもんで。嫌でしたか?」
「そんな事は……」
「……冷えます。そろそろ部屋へお戻りください」
 今ここではっきりと肯定されたら、箍が外れてしまう気がした。強引に部屋へ帰し、自分は天守へ。
 船の内装は麒麟丸が居た頃から変えていない。おいらは新しい主として、天守の最上階に置かれた椅子に座る。寒さにはめっぽう強いので、左右に大きく窓があるこの部屋で眠るのが、周囲の異変に気付きやすくて都合が良かった。
 椅子に腰を下ろし、片足をもう片方の膝の上に乗せる。更にそこに肘をついて、まだ熱の残る唇をなぞった。
 嫌ではなかった、か。
 心が満たされる。良い夢を見れそうだ、と、おいらは一つ伸びをすると、背凭れに体重を預けた。

Written by

キャラクタータグ