宇宙混沌
Eyecatch

第6章:ましな方の地獄


「せつな。八つ当たりで人を叩いちゃいけません」
「すみません。母上」
「謝るなら理玖さんに謝って!」
 あの後仕事で遠征していた。帰宅して久々の休みの日。理玖が父上に連れ出されてほっとしたのも束の間、私は母上から当然の叱責を受けていた。
とわも、しても良いけど外で逢瀬するとか、気を遣ってあげてね」
「ごめんなさい。父上とせつなの鼻のことすっかり忘れてて……」
「あと激しいのは絶対に駄目だよ」
「わかってます……」
 しおらしくなったとわと私を見て、母上は話題を変える。
「とわは理玖さんのどこが好きなの?」
「え~」
 母娘[おやこ]で恋の話をするな。居たたまれなくなったが、立ち上がろうとした私の着物の裾を母上が掴む。とわは暫くもじもじとしてから、照れながら答えた。
「やっぱり、顔が綺麗なところ?」
「顔だけが取り柄の男なんて今すぐ別れろ」
「顔だけなんて言ってないよ! 他には……仕事してる時の姿はすごく格好良いかな」
「わあ素敵」
「でも私やとわより弱いだろう」
 前はそんなことなかった気がするが。私達が強くなったのだろうか。
「それは仕方ないよ~。理玖は六百年間[これまで]に貯めてきた妖力がリセットされてるんだから~」
「りせっと?」
「全部無くなって、やり直しってこと。それに、それでもそこら辺の雑魚妖怪に比べたらずっと強いし」
「こら、雑魚なんて言っちゃ駄目」
「ごめんなさい」
 母上は今度は私を見る。
「せつなは理玖さんのどこが嫌いなの?」
「まずあの態度が気に食わない」
 なんで私にだけ粗暴な口の利き方なんだ。思い出すと腹が立ってきた。
「最終的に味方になってくれたが、裏を返せば主を簡単に裏切った男だ。完全には信用できない」
「でもとわを命懸けで守ってくれたんでしょう? 他には?」
「いくらでも出せるからって、砂金で人を買うだろ」
「最近はやってないよ~」
「突然現れて私のことはどうでも良いだの実力不足だの偉そうに」
「ちょっと待って。それいつの話?」
「勝手に惚れて勝手にとわを連れて行こうとする」
「別に連れて行かれるわけじゃないよ!」
 とわの大声に、次々と口から出てきた悪態が止まった。
「私が理玖と一緒に生きたいって、思ったんだよ」
「っ……!」
 その言葉は、決定的だった。私は母上の手を振り払うと、脇に置いてあった薙刀を手に外に出る。そのまま当てもなく走り出した。
 理玖なんて、あのまま本当に死んでくれれば良かったのに。そんなことは思ってはいけないと理解しつつも、止められない。
 だってそうしたら今頃、とわ姉ちゃんはまだ「せつな[わたし]のお姉ちゃん」で居てくれた筈だ。

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目次

  1. 実家に帰らせていただきます
  2. 父親
  3. Never come true
  4. 貴方だけのお姫様
  5. 言い訳できない
  6. ましな方の地獄
  7. 一角の甪端
  8. 溺れていたのは
  9. 一緒に帰ろう

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