宇宙混沌
Eyecatch

その愛は海の様に


「理玖様~」
 いつもの様に椅子で眠っていたところ、竹千代の声に起こされる。額を押さえて目を開けると、手の下に半泣きの竹千代が床に転がっているのが見えた。
「どうした?」
 緊急事態かと身構えたが、そうではないらしい。
女子[おなご]の会話は過激で俺居た堪れなかったんだぞ~」
 話を聞けば、酒に酔って一度眠ったがすぐに起きてしまったらしい。だが会話の途中に割り込めず、気付けば姫達は竹千代の存在を忘れて夜や下の話をしていて、堪らずこっそり抜け出してきた、と。
「お前も本当ならもう元服して、嫁の一人や二人貰ってる歳だろ」
「心の準備が足りてなかったんだぞ……」
「ははっ」
 思わず笑ってしまう。竹千代はおいらを睨んだ。
「姫達がどんな話をしてたのかもっと教えてくれよ」
「理玖様もやっぱり助平なんだぞ……。あいつらに手を出したら、いくら理玖様でも殺生丸や犬夜叉に殺されると思いますだぞ……」
「解ってるって。それで?」
もろはとわと理玖様のことを指して『さっさとやることやっちまえ』って」
「ちょっと待て、どうしてそういう話になった?」
「とわが理玖様の渾身の愛の告白について喋ったんだぞ。俺寝てると思われてたから」
「う、なるほどね……」
 せつなは口が堅いから、と思ったが、とわ様の口から言われちまったか。
「理玖様もやっぱり殺生丸が怖いんだぞ?」
「そりゃあね。それに……」
 人間を愛した先に待つものは破滅のみ。おいらはそう信じてきたが、最近は違う考えを持っている。
 誰を愛しても、破滅するのだ。麒麟丸はりおんを、是露[アネさん]は犬の大将を愛して、愛して、破滅した。今幸せに暮らしている殺生丸だって、あと数十年もすれば奥方は死んでしまう。
「理玖様?」
 おいらは溜息を吐く。まあ、だからと言って愛するのをやめるなんて、試みる気が起きないほどに難しい。
「竹千代はどう思う?」
「何をですだぞ?」
「もろはの言い分について」
「……俺ももろはに同意するんだぞ」
「煽るねえ」
「理玖様ととわには幸せになってほしいんだぞ」
「……ありがとう」
 竹千代には例の箱の中から別の食べ物を探し出し、持たせて部屋に帰した。
 おいらも天守を降りる。風が止んでも、陽が落ちても、海からは常に波の音が聞こえてくる。おいら達を取り巻く海原の存在を主張してくる。
「とわ様は、おいらと一緒なら破滅への道を歩いてくれるんですかね」
 小さく呟いた言葉も、止まない濤声に揉まれて沈んでいく。それは消そうと思っても消せない、誰かへの愛の様だった。

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