理玖が死んで一月、二月。悲しみを時が癒してくれるのは一体いつなのだろうと思っていた頃。
また理玖が死んだ時の夢を見ていた。目を瞑ると最期に見た微笑みが浮かんで、眠ること自体を恐れるようになっていた。
「理玖……」
私が貴方を好きだと思った日も、こんな綺麗な星空だった。月が昇らない夜。
ざく、と土が踏まれた音に顔を上げる。相変わらず仏頂面の父上が立っていた。慌てて涙を拭く。
「……おかえり。邪見は?」
「何処かで落ちた」
「かわいそう」
「きちんとしがみついていないからだ」
「父上が飛ばしすぎたんでしょ」
「ならば」
父上は一呼吸置いて、吐き出すように言った。
「生にしがみつかなかった理玖が『かわいそう』で、己の力を顧みず退かなかったお前が悪いのだな」
「…………そうだよ」
また視界が歪む。もう袖がびしょびしょで、拭えなかった。
「とわが退けば、理玖は生にしがみついたと思うか?」
「…………」
「あれを初めて見た時、麒麟丸も酷な事をするものだと、思ったが」
紛い物の命だ。理玖が自分を嘲っていたのを思い出す。
「せめて自我が芽生える前に朽ちさせてやれば良かったものを」
「理玖のこと物みたいに言わないでよ!」
思わず足元の石を拾って投げ付けてしまう。父上は顔色を変えない。
「物だ。奴が己をそう認めていた」
「だったら何!? 大事な物が壊れたって私は悲しいよ!」
「そうか」
父上は無表情のまま近付いてきて、私の腕を掴んで立たせた。次の瞬間、気付くと白くて長い毛に全身を包まれている。
「うわ」
巨大な白い犬の腹の上に居た。これ……父上の妖体?
「今夜は人の身には冷える」
「…………うん」
暖かかった。それが私に否応にも理解させた。
理玖に手を握られても、抱き締められても、温かいと思ったことが無い。理玖からは心臓の音が聞こえたことが無い。何より、心臓がある筈の場所に穴が開いていても動いていた。
理玖は正しく紛い物の命だった。それは彼が生み出された時からの呪いで、理玖にとってはいっそ捨ててしまいたいものだったのかもしれない。
それでも、私にとっては愛だった。