その命はもう愛だ [2/4]
「ところで、朔の日にくろのはどうなるの?」
洗濯を終え、皆で昼餉を囲む。話題は母上の隣で眠っている、黒い犬の姿の末妹について。
「母上、顔を見てから名前を付けるって言ってたけど、私が帰ってきた時点で二ヶ月だったじゃん? その間に朔の日あったでしょ?」
「この子は妖怪寄りだから、人間じゃなくて妖怪になってしまうの」
「というより、元が犬妖怪の姿だから、今妖力で保っている仔犬の形を保てなくなるんじゃ?」
母上の答えを聞いて、理玖が思考を巡らせる。理玖の説によれば、くろのが未だに人形になれたりなれなかったりするのは、人形に変化するだけの妖力が無いかららしい。
「…………なるほど」
せつなが子供の世話は大変だと言っていた意味が漸く解った。こんなに大人しくて手のかからない子が? と思っていたが、理性も分別も何も無い状態で妖怪化するとなると……。
「それって……やっぱり大っきいんですかい?」
理玖も冷や汗をかいている。
「うん! とっても!」
母上の笑顔が眩しい。本当に、何も無ければ良いな。
「……父上、朔の日くらい家に居てくれれば良いのに」
「父上がそういう質だと思うか?」
「いいや全然思わない」
子供を森に放置してた人だもん。期待するのが間違いだよね。
「翡翠が付き添ってるってそういう意味かー!」
くろのの面倒を見てくれてるのか! そりゃ退治屋とか妖怪の扱いに慣れてたら適任だよね!
「どういう意味だと思っていたんだ?」
「てっきりせつなと一緒に過ごしてるんだと」
「すまないが、私は眠くなったら寝るぞ」
「邪魔するぜー」
「りんちゃんこんばんはー」
「こんばんはー」
夕方にもろは一家が到着した。
「子供できたのめでてえなあ」
「まだ生まれてないよー」
犬夜叉さんが私の頭を子供のように撫でる。かごめさんも祝ってくれた。
「妊婦さんは中で暖かくしてようね」
「え? みんな外に行くんですか?」
「くろのが妖体化すると部屋に収まらんぞ」
私はもう寝る、とせつなが付け足す。
「えー私も大っきいくろちゃん見たい~」
「そうね、少しくらいなら良いんじゃない?」
かごめさんが母上を振り返ると、にこにこと笑みで返事をする。
「やった!」
許可をもらい、飛び上がりそうになって、また慌ててやめた。気を付けないといけないことが多くて大変だ。
夕餉を食べ、暫くすると私達の髪が伸びた。犬夜叉さんの髪も黒く染まる。
「やべっ! でかくなっちまうよ!」
もろはが慌ててくろのを掴み、外に走る。理玖と共に追いかけると、屋敷の前には背丈よりも大きな黒い犬が居た。
「すご……もこもこ……」
思わず尻尾を触る。くろのは振り向いて、大きな舌で私の顔を舐めた。
が、その後すぐに隣の理玖に振り向き、大きな口を最大まで開く。
「ちょっ、味を占めないでくださいよ!」
ぱっくん、とされる前に理玖は瞬間移動で回避した。追いかけようとしたくろのの脚を叩き、制止する。
「こらっ! お姉ちゃんの旦那さんはご飯じゃないよ!」
「言ってもまだ解らねえよ。ほら、こっちだぜ!」
もろはは懐から音の鳴る玩具を取り出すと、駆け出した。くろのはそれを追い駆ける。
「理玖の旦那は食われない内に、とわ連れて中戻れよ。くろのが寝たら交代な」
「承知いたしやした。……とわ様」
理玖が戻ってくる。引かれた腕を、引き返した。
「もうちょっと」
「冷えますよ」
「そうだ! くろののお腹で暖まれば良いんだよ」
「はあ」
「父上もしてくれた事あるんだ」
「へぇ、あの殺生丸がねえ」
声に振り向けば、すっかり黒い犬夜叉さんが腕を組んでいる。
「十年ぶりの再会でも眉一つ動かさなかったくせに」
「…………」
それだけ、私が切羽詰まってたの、見抜いたからだと思う。
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