宇宙混沌
Eyecatch

ここから一番遠い場所

 その日理玖が持ってきたのはワインだった。
「珍しいものが報酬に入ってやした。皆で飲みましょう」
 私はまだ飲めない、と断ったが、他のみんなは飲んでしまった。理玖は葡萄が嫌いだと言っていた気がするけど、ワインは口に合ったらしい。
 しかし飲み慣れていない四人で割るには多すぎたようだ。床に転がった竹千代ともろはに、着物をかけてやる。せつなは椅子に座ったままだったが、危ないのでこちらも床に下ろした。
「理玖〜。部屋に運ぶの手伝って……」
 言葉は尻すぼみに消える。理玖は起きてはいたが、完全に酔いの回った顔でぼんやりと私を見ただけだった。器に残った最後の一滴を舐め取って、立ち上がる。
 その所作がとても艶めかしくて、思わず目を逸らした。
「……仕方ない。みんな今日は此処で寝てもらうか」
 せつなにも着物をかけて、立ち上がろうとした時、理玖の手が肩に置かれた。そのまま床に転がされる。
「え?」
 馬乗りされて、軽く口付けられた。キス自体は初めてじゃない。けど、これ。
「理玖……」
「何ですかい?」
 袴の下にある固い物が押し付けられる。再び口を吸われそうになり、慌てて肩を押し返した。
「やっ、こんなとこで……」
 すぐ隣にはせつなが寝ている。テーブルの向こうにはもろはと竹千代も。
「此処じゃなければ良いんですね?」
 問われて、答えに詰まる。
 この部屋じゃなければ、このまま抱かれて良い? 理玖とは一応付き合ってるけど、まだ、こういうことをしようとは思っていなかった。
 でも。私の視線は、襟元から覗く肌に吸い寄せられている。
「何処が良いんです?」
「……ここから、」
 途中で理玖が私のお腹を撫でた。それだけで下腹部がきゅんとして、言葉が出なくなる。
「ここから?」
「ここから、一番遠い場所」

 数分後には天守のてっぺんに居た。椅子の前の床に適当な着物を敷いて、その上に転がされている。窓から入ってくる夜風が肌を冷たく撫でた。
「すぐにあつくなりますよ」
 震えたのは風の所為か理玖の所為か。元から着崩している着物の前を開けられる。腰巻を捲り上げて、中を晒された。
「恥ずかしいよ……」
 月明かりで、ぼんやりと顔貌[かおかたち]は見えている。顔を隠すべきか下を隠すべきか迷っていると、さらしの上から胸の先端を撫でられて思わず声が出た。
「おやおや、生娘だと思ったんですがね」
「は、初めてだよ! ひどい……んっ……」
「だとしたら随分と敏い感覚をお持ちで」
 開かれた脚の間がひんやりとしてきた。濡らしている事に気付かれたくなくて脚を閉じようとしたが、挟まった理玖の体が許してくれない。
「見られるのがお嫌で?」
 頷くと、理玖は口を吸う。舌が唇を叩くので、少し開いたら捩じ込まれた。そのままの状態で、理玖は私の身に付けているものを剥がしていく。
「犬らしい格好の方が楽ですかね?」
 蕩けてきた頭では、もう理玖の言っている事の半分も聞き取れなかった。お酒、飲んでないのに、頭おかしくなっちゃったみたい。
 気付いたらうつ伏せにされ、何かが下腹部を弄っていた。
「やっ、怖い!」
「怖い?」
 それはこれまでに入れたことのある太さとは比べ物にならない。第一、此処にはコンドームもアフターピルも無い。受け入れたら、それは、家族になることと同義だ。
「どうしたら怖くなくなりやすか?」
 緑の目が覗き込んでくる。許せば後戻り出来ないとわかっていたけど、私は退けなかった。それだけ、理玖のことが好きだった。
「……もっとちゃんと、抱き締めて」
 震えたのは風の所為だ。理玖は言った通りに、その胸板で私を温めてくれた。

 何かが下におりていくのがわかる。初めてを破った瞬間の痛みが薄れてくると、理玖の先端が私の奥を抉る感覚に、正気を失いそうになった。
 気持ち良さよりも、愛する人と繋がっている幸福感でおかしくなりそうだった。こんな幸せな事をして、明日天罰が下ったりしないだろうか。
 横向きに寝て、背後に居る理玖は私の肩に口付けを落とす。右腕は私の腰に回っていて、快感を逃そうと体を離しても、気付かれるとより一層押し込まれてしまう。
 素面で臨まない方が良かったのかもしれない。快感と幸福感と背徳感の様な恐怖で押し潰されそうになり、気付けば指を組んで祈るような姿勢になっていた。
「……とわ様」
 それに気付いた理玖が、私の手を包むように握る。
「何も怖いことはありませんよ。とわ様が壊れても、おいらが此処で守ってやすから」
 言って更に律動を速めた。奥だけでなく途中にある弱いところも擦られて、嗚咽の様に喘いでしまう。
「とわ様」
 愛しています。多分そう言われたのだと思うけれど、その言葉は私が壊れるときの叫びに掻き消えた。

 目覚めると朝日が窓から差し込んでいた。簡単に着物が着せられていて、隣には雑に服を着た理玖が眠っている。
「理玖」
「う……とわ様……」
 緑の目が大きく開いて、それから申し訳無さそうに細められる。
「申し訳ありません。酔って御無体を働いたようで……」
「……酔ってなかったらしなかったの?」
「勿論です」
 その言葉に腹が立った。股間を蹴飛ばすと、思った以上に痛がられて、やりすぎたと反省する。
「愛してるからしたんじゃないの?」
「それは勿論ですよ!」
「じゃあ何」
「愛しているからこそ、本当はもっと段階を踏みたかったというか……」
 言いながら理玖が照れる。そんな顔されたらこっちも照れちゃうじゃん。
「もういいよ」
 言って額に口付ける。
「私もいつかはとは思ってたから」
「とわ様……」
 そのまま良い雰囲気になり、再び体を重ねようとした時、階下で私達を探す声が聞こえた。
「夜までお預けですね」
 理玖が先に部屋を出る。私は彼が皆を別の場所に誘導するのを待つ間、ただただ昨夜の夢を噛み締めていた。

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