宇宙混沌
Eyecatch

XXXしないと出られない部屋 [3/3]

「そしてどうなった?」
 黒騎士は話を止めた僕を珍しく思ったのか、沈黙が長引かない内に続きを催促した。
「そのまま山を探した。被害者は四人。山の中の施設に幽閉されていた」
 此処はエルステ帝国最高顧問・黒騎士の家。僕達は黒騎士及びオルキスという少女――黒騎士に言わせれば人形の護衛という形で、この家に間借りしている。
 気付けば片手で数えられないくらいの年数、一緒に暮らしていた。スツルム殿はオルキスと仲良く入浴中で、僕と黒騎士は日課の酒盛り、もとい夕食後の情報交換の時間だ。
「本来の依頼は熟せたのか」
「いいや」
 僕は黒騎士が買ってきた酒を呷る。
「見つけた時点で二人は痩せ細って、多分衰弱死していた。一人は自殺だと思う。もう一人は何かの薬漬けにされていて、最終的に命は助かったみたいだけど」
「お前が探していた娘は」
「……自殺した人だった」
 今度は黒騎士もグラスに口を付ける。こんな可愛い女の子にする話じゃないでしょ、これ。
「確かに、そんな現場を旅の傭兵が見つけたとなれば、警察もまずお前達を疑うか」
「罪状凄かったでしょ? 一人を高層階から突き落として殺害、三人を監禁・拷問の末殺害、一人を監禁の上違法薬物の使用……その他ホテルへの放火とか細かいのを入れて、一夜にして極悪人だよ僕達」
「一人は実際お前の過失だろう」
「うーん、それはそう」
 転落した男は全身黒焦げになっていたらしい。着ていた服の素材が悪かったそうだ。以来、人に向かって火の魔法を使う事はやめた。
「本来の依頼主が証言してくれて、命拾いしたな」
「まあね。それまでの数日間、拷問とは言わないまでも警察では酷い目に遭ったけどねえ……」
 ……という話をしたら、執拗な自白強要を受けていたのは僕だけで、スツルム殿の方は留置場でそれほど嫌な目には遭わなかったらしい。それならそれで良い。彼女の事も騙して連れて来たのだと言い張った甲斐がある、というか事実そうだし。
 そして、その時の勾留記録、及び僕に関しては過失致死罪での処罰記録が黒騎士の目に留まって、今こうしてテーブルを挟んでいる訳だけど。
「それで正義のヒーローごっこはやめたと」
 黒騎士が締め括る。僕は頷いた。
「何が正しいかなんて、雇われる側の僕達が考える事じゃない」
 ボトルを傾けたがもうほとんど入っていなかった。まだ飲むかとの問いに、首を横に振る。
 娘さんを助けられなかったにもかかわらず、「亡骸が戻って来ただけありがたい」と言われて報酬は受けとった。確かにその依頼は「娘の居所を探せ」であって「無事に連れ帰って来てくれ」ではなかった。曲がりなりにも娘は傭兵、仕事先で命を落としている事は覚悟していたのだろう。
 だけど、違うじゃないか。彼女は仕事で死んだんじゃない。あんな惨い死に方、両親は知らずに居た方が良かったかもしれない。
 依頼主を悲しませ、スツルム殿の尊厳を傷付けて、僕自身も怖い目に遭って――そこまでして手に入れたお金は、逆に手元にあってほしくなかった。
 結局、「正義の為」「弱き人々の為」なんてのは自慰と大差無い。僕が黒幕だと信じて尋問してきた刑事達と、雇い主として反政府勢力ばかり選んで戦争に加担してきた僕は同じだ。ただ自分の信じる正しさを振り翳して、気持ち良くなっているだけだ。
「僕達は、支払ってもらう対価の分だけ、きちんと仕事を熟せば良いんですよ。その意味とかは何も考えずに」
「……そうするには、お前達は力を付けすぎたと思うがな」
「仕方ないじゃない、みんなが弱いんだもの」
 黒騎士が少しだけ笑った。しかしその顔はすぐにまた厳しくなる。
「優しすぎるな、お前は」
「スツルム殿にもよく言われる」
「そうか。優しいというより、甘いのかもしれんがな」
 全くその通りだ。結局のところ、自分に甘い。僕が仕事をした結果、何が起こるかの責任は取りたくないし、考えたくないのだ。
「僕に極悪人であってほしかった?」
 最後の一滴を飲み干して、グラスをテーブルに置く。
 黒騎士は虚を突かれて、唇を真一文字に引き締めた。
「悪い事をする時は、一人じゃ心細いもんねぇ?」
 責任を取りたくないのは誰だって同じだ。僕だって、黒騎士だって。
 黒騎士にとって、僕達は都合が良い部下だろう。彼女の指示にはほとんど異を唱えないし、必要以上に意味や目的を問う事もしない。だがその一方で、物足りないだろう。だって一緒に物事を進めてくれる訳じゃないから。
「貴様、今しがた雇い主の善悪は判断しないと――」
「んー、だって今更その事件の事掘り起こされたら勘繰っちゃうよお」
「お先」
 タイミング良くスツルム殿達が風呂から上がってくる。黒騎士は会話を有耶無耶にして、立ち上がり風呂へと向かった。
「ドランク」
 水色の髪の少女が、抑揚の無い声で問う。
「アポロ、怒らせた?」
「なんでそう思うの?」
「アポロ、怒ってた」
「怒ってたかあ」
 あれは失望だろう。彼女の失望の表現の仕方が怒りなだけだ。
「謝らなきゃ」
「うーん、でも、僕が悪い事をして怒った訳じゃないんだよねえ」
 オルキスは首を傾げ、難しい、と呟くと自室に戻って行った。スツルム殿はキッチンから別の酒を持って来て封を切る。
「何の話をしていたんだ?」
「廃墟ホテルの話」
「ああ。黒騎士も何を考えてるんだろうな。現場を発見したとはいえ、別にあの事件で目に留まるような事なんてしてないが……」
「僕の事前の情報収集能力を高く買ってくれたんじゃな~い?」
 軽口を叩くと、スツルム殿は呆れた目を僕に向けながら酒を呷る。
「……あの時は本当にごめん」
 僕は手段を選んじゃないけなかった。カルトの教主は結局、何の情報も教えてくれないまま死んだ。だったら、スツルム殿を傷付ける前に焼き殺してしまえば良かったんだ。そうすれば警察にも知られずに、ただ見つけた遺体を依頼主に届けるだけで済んだのに。
「それはもう聞き飽きた」
 スツルム殿は一杯目を空にして、二杯目を注ぐ。
「明日休みだからってペース早すぎない?」
「飲もうが飲むまいが、お前に抱き潰されれば同じだ」
「今日は嫌な事思い出して萎えてるのでしません」
「そうか。別に問題は無いだろ。あの頃には、もうそういう仲だったじゃないか」
「そうだったのか」
 黒騎士の声に、二人してぎこちなく振り向く。
「あれ? 早くない?」
「タオルを忘れてな」
「ああ悪い、洗濯物畳んでそのままだ」
「それより今の話が気になる」
 黒騎士は風呂に入るのをやめて、スツルム殿の隣に腰を下ろす。スツルム殿が勧めた酒を手に取った。
「まだ飲むの!?」
「明日は休みだ」
「そうだけど!」
「いつからそういう仲なんだ?」
「組み始めて半年くらいからだな」
「ちょっと! 何ナチュラルに恋バナ始めてんの!? ていうか僕達がそういう関係だって、部屋同じで良いって言った時点で気付いてるでしょ!?」
「私は今の話ではなく馴れ初めを訊いているんだ」
「面白いぞ」
「スツルム殿!? 自分で面白いってハードル上げるのやめてくれない?」
「珍しくスツルムの方が前向きだな」
「ドランクにとっては思い出したくない過去だからな、馴れ初め」
「あーーーー!! もう、話すなら僕の居ない所で話して! 先シャワー浴びるよ」
 僕はグラスを流しに置いて、そそくさとその場を立ち去った。

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