XXXしないと出られない部屋 [1/3]
子作りしないと出られない部屋
「痛ってて……」
僕はスツルム殿を庇って盛大に打ち付けた尻を擦った。
廃墟から夜な夜な物音がする。魔物が住み着いているかもしれないから様子を見てきてくれないか。そんな依頼で寂れた廃ホテルに侵入して半刻も経たぬうち、傷んだ床をぶち破ってこれだ。
「大丈夫か?」
「ベッドがあって助かったよ」
落ちたのは下の階の客室だった。僕の上から退いたスツルム殿は、また床が抜けないか注意しながら部屋の扉に向かう。
「……開かないんだが」
「ええ?」
ガチャガチャしている所に、僕も近寄る。ノブを捻ってもびくともしない。
「鍵が中で錆びついているのか?」
「うーんどうだろう」
「窓から出られるだろうか?」
「それこそ死んじゃうよぉ」
郊外に建てられたこのホテルは、珍しく高層ビルだ。振り向いた窓からは、かつて名所として賑わった山が見える。
一応下の階から順に調べていたのだが、途中の階には何の気配も感じなかった。階段室から軽く廊下を覗いては次の階へ、を繰り返していたらあっという間に最上階。
今度は上から順に各部屋も見て行こうと、鍵の開いていた客室に足を踏み入れた矢先の事だった。流石にこの高さでボルダリングをする気は無い。
「じゃあぶち破って良いか?」
「それもやめた方が良い。この状態じゃあ、何処がどう傷んでるかわからないからねえ」
勢いを付けてドアを破った先、廊下の床板が全部腐っていた、なんて事もあり得る。かといって魔法で壁を崩すのも、建物の強度を確実に減らすので、おいそれとはできない。
第一、床は本当に傷んでいたのだろうか?
僕は頭上に注意しながら、部屋の中を調べ始めた。既に崩れかかっている所からなら、壊しても建物への影響が少ないかもしれない。
「あの山、何の変哲も無いが、何が人気だったんだ?」
「なんかパワースポットだったらしいよ。昔はもっと景色も綺麗で」
「へえ」
スツルム殿は自分で訊いておきながら、興味が無さそうに相槌を打つ。そろりそろりと元の場所に戻ると、ベッドに座った。
「……っていうのは表向きの話でさ。もちろん、噂を耳にした一般人が迷い込む事もあったみたいだけど、山も含めて此処は宗教施設だよ。カルト集団が『修行』をしてたってわけ」
「修行? どんな?」
スツルム殿は純粋な疑問をぶつけてくる。こりゃあ、いつもやってる鍛錬的な事を想像してるな。
僕は調べる手を止めて振り返る。
「それ聞いちゃう?」
「何か問題でも?」
僕は溜息を吐き、部屋の扉を指差す。
「ノブのところ、よく見て」
スツルム殿は再びドアの前へ。暫くして、怪訝な顔で僕を見た。
「鍵穴も、サムターンも無い……」
「そ。このホテルね、客室の中からは鍵の開閉ができないの。信者がノルマを達成するまで、泣こうが喚こうが此処に幽閉」
「そのノルマって何だ?」
「ん~まあ、他にも色々あったとは思うけど……ヒント、ダブルベッド」
それを聞いてスツルム殿も判ったのか、顔を赤くし、そして急激に青くなる。答え合わせをする様に説明を続けた。
「信者同士で強制的に結婚させる制度があったんだよ。それ自体は社会情勢によっては合理的な面もあるんだけどさ、問題は子作りの数やタイミングまで管理されてて、この建物で監視されながらヤラなくちゃいけなかったって事」
そこまで言ったところで、僕は天井の穴を振り仰いだ。
「……だいたいこれで合ってる、よね?」
「見事だ」
第三者の声が答えた。スツルム殿も聞き覚えのある声にハッとして上を見る。
先程落ちてきた穴から初老の男、今回の依頼人が顔を覗かせていた。
「そして、今度はお前達がそうする番だ」
スツルム殿が今度は僕を見る。僕は肩を竦めた。
「なんか変だと思ったんだよねえ。この建物、他の建物とは結構離れて建ってるのに、音が響くかなあって」
「変だと思ったなら断れよ!」
言い合いを始めようとしたが、依頼人は銃を構えた。僕は両手を上げ、スツルム殿は僕の後ろに隠れる。
「抵抗しないでスツルム殿。さっきも言ったでしょ、暴れると諸共崩れ落ちちゃうかも」
剣の柄を握ろうとしていたスツルム殿も、渋々手を上げる。
「で、何が目的? お金なら交渉に乗らないこともないけど……」
「さっきも言っただろう。お前達は今此処で結ばれ我等が神の為に子を産み落とすのだ」
やれやれ、狂ってるな。それとも異種族間には子供が出来ない事も知らない?
「信者を勧誘する前に建物の改修をした方が良いんじゃない? あ、お布施が無いからそれも無理なのかあ」
銃弾が一発飛んできて、僕の髪の一房を床に落とした。思想は狂ってるけど狙いは良いな。そういえば、一応今の肩書は猟師って言ってたっけ。銃を携えて山に出入りしてても怪しまれない仕事だねぇ。
「ドランク!」
「大丈夫、当たってないよ」
「次は当てるぞ」
銃の先がスツルム殿に向かう。僕は彼女を背中に隠した。
「質問に答えてくれる?」
「目的か……初めは金儲けだったが、一生暮らせるだけ絞りとった後は飽きちまってなあ。今はこうして嫌がる二人を無理矢理くっつけるのが楽しみなのさ」
「そりゃあ悪趣味な事で」
二発目。宣言通り僕の肩を掠めて床にめり込んだ。
「三発目に情けは無いぞ。おお、そうだ、言い忘れていたが俺は他人がヤッてるのを見るのも好きだが、自分で嫌がる女を抱くのも好きだぞ」
依頼人は下衆な笑みを浮かべる。
「なに、今更信者を集めようとは思っていない。一つ見せてくれたら無事に帰してやる。勿論最初に提示した報酬付きだ。悪い話じゃないと思うが?」
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