宇宙混沌
Eyecatch

touch [2/2]

 ドランクは翌朝目覚めて、シーツに滲んだ血の色を見て冷静さを取り戻したように思う。
「ごめんね、服とか剣とか回収しなくて。僕の服も駄目になっちゃったし、とりあえず何か適当なの買って来るから、その後ちゃんとしたの買いに行こう。ああ、そうだ、避妊薬も……」
「それは要らない」
「え?」
 ドランクが目を丸くする。
「お前は、まだ事が始まる前に帰って来た……。あたしの中には、ドランクしか入ってない」
 ドランクに仕事を頼んでいた依頼主だから、という事で油断した。ドランクが予定よりも早く仕事を終わらせなければ、今頃は……。
 ドランクが跪き、ベッドに腰掛けていたあたしの手を取る。
「ごめんなさい……」
「……何故謝る」
「初めてだったでしょ? まだ何もされてないんだったら、急ぐ必要は無かった……」
 あたしは俯いたドランクの豊かな髪を撫でる。謝らないといけないのは、あたしだ。
 だって、敢えて陽が昇るまでその事を言わなかったのだから。ドランクがあたしの事を好いている事も、その上であたしに触れずに大切にしてくれている事も承知していた。宿に着いた時点で事実を話せば、昨夜ドランクがあたしを抱く事は無かっただろう。
 でも、ドランクは知らなかったのだ。あたしも彼を好いている事を。あたしが素直に、そういう事を言える人間ではないから。
 それを知ったら「非道い」と言われるのはあたしだろうか。ドランクに嫌われたくはない。
「気にしなくて良い……。あの薄汚い依頼主よりは、お前の方が何倍もマシだ」
 結果、そんな可愛げのない言葉が出てくる。どっちにしても嫌われそうだ。
「それでも、お薬は飲んだ方が良いよ。僕との子供が出来ても困るでしょ……?」
 答えなかったあたしを訝しんで、ドランクが顔を上げる。あたしの表情で何かを察したのか、ふにゃ、と溶けた様な笑顔になった。
「なんだぁ、良かった……」
 怒らないのか。実際襲われていたし、ドランクの早とちりとはいえ、自分に都合が良い様に無言の嘘をついたのはあたしなのに。
「スツルム殿、もし嫌じゃなければ、今度はちゃんと優しくさせて?」
「……好きにしろ」
 この期に及んでも、あたしの口から出てくるのは、天邪鬼な言葉だけだった。

闇背負ってるイケメンに目が無い。