宇宙混沌
Eyecatch

第1章:THE DOSSSS with Tramonto Familia


 数日後。練習の休憩時間に食堂に赴いたフェリは、ジータとルナールが向かい合って何やら論じている場面に遭遇した。
「あの三人だったらベンジャス一択でしょ!」
 ルナールの強い口調に、ジータはテーブルの上に置いた宝石を指で弄りながら応える。
「ルナールって本当に少女漫画みたいな絵面のカプが好きだよねー」
「何よ。ジータはとりあえず体格良い方を受けにしとけば良いと思って」
「良いじゃないのジャスバレ! バレンティンの持つ受けとしてのポテンシャルが解らないの!?」
「そりゃ多少はあるでしょうよ、ドMだから」
「大体、ルナールだってドランクとの時はベンジー受けだったじゃん」
「私は別に左右固定厨じゃ――」
 と、そこでルナールがジータの視線が動いた事に気付く。ジータはフェリの方を見て、気まずそうに口を結んだ。聞いてはまずい話だっただろうか。
「何の話をしていたんだ?」
「知らない方が良いですよ。この人達みたいに、頭の密度が海綿体以下になりたくなければ」
 背後から声がして、フェリは飛び上がった。振り向けばジャスティンが立っている。
「お前! 足音くらいさせろ!」
 エルーンの耳でも気付かないなんて。傭兵というより殺し屋なんじゃないか?
「ていうか、かいめんたいって何だ?」
「ご存じありませんか。此方も別に知る必要はありませんよ、幽霊さん」
 フェリは馬鹿にされたようで、少しムッとした。
 ジャスティンは中へ入り、水を汲んで口を湿らせる。ジータが立ち上がり、弁明を始めた。
「好きに言えば良いじゃないですか。昔から、聞こえないと思ってそういう話をする豚共はごまんと居ましたよ」
「ご、ごめんね。でも気分の良い事じゃないでしょ……?」
 尚も取り繕おうとするジータに、ジャスティンは侮蔑の目を向ける。
「謝るくらいなら最初からしなければ良いんです」
 縮こまる二人。居た堪れなく両者を見比べるフェリ。ジャスティンはコップを洗うと、溜め息を吐いた。
「一番人気だった組み合わせを教えましょうか?」
 フェリは、懲りずに少し顔を輝かせた二人に、正直呆れる。
「……なんて、冗談も見抜けないんですね」
 今日一番冷たい声色が刺さる。ブルーグレーの瞳がフェリを射抜いた。
「貴方も、呑気に休憩している場合ですか」
 フェリは俯いた。自分が一番足を引っ張っている自覚はある。殆ど演奏ミスをしない彼に言われては、言い返す事も出来ない。
 ジャスティンは練習室へと戻る。フェリも水を一杯飲むと、二人に軽く挨拶だけしてその後を追った。
「♪悲鳴が焚き付ける 潰して黙らせろ」
 部屋ではジャスティンが一人で例の曲を練習していた。今回のボーカルはアオイドスなので、彼がメインを務める出番は無い筈だ。
 なのにどうして、こんなに一生懸命なんだろう。扉に背を向けていたジャスティンは、フェリが部屋に入って来た事にも気付いていない様だ。
 結局最後まで歌い切って漸く、部屋の中の気配に気付く。
「弾いて良いか?」
「ええ」
 ジャスティンは部屋の隅に置かれた椅子に腰を下ろし、ベースを抱え込む様に俯く。
「二度と貴方を失うものですか」
 その呟きは小さく、キーボードの音が響く中では聞こえなかったであろう。フェリがエルーンでなければ。

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