宇宙混沌
Eyecatch

スツルムの上客 feat. Sturm [5/6]

 そんな夜を幾つも越えて、あたし達はこの空域では名を馳せる傭兵となった。
 ドランクもあたしも、あの頃よりは大人になった。あたしはもう、ドランクが行きずりの女を抱いたくらいで傷付かないし、ドランクももう、あの日のような弱い顔は一切見せない。
 だが、有名になりすぎたせいだろうか、それとも情勢が変化したせいか。あたし達に来る傭兵の仕事が減ってきた。それでも良いか。弟妹達ももう独り立ちしたし、二人で質素に暮らすだけならまだ余裕はある。
 そんなある日、ドランクが空域の外に渡る仕事を持ってきた。騎空艇が必要な大仕事だ。こいつにはまだあたしの知らないコネが沢山ある様で、うすら寒くなる。思えば、こんなに長く一緒に居るのに、あたしが知っているのは「今」のドランクの事だけだった。
 結局、その仕事は上手くいかなかった。どう考えても実力に見合わない大仕事だった。それでもあたしが断れなかったのは、ドランクがあたしの為に仕事を絶やさない様にしてくれてきた事を、解っていたからだった。
 でも、これ以上は。今回の様な危険な仕事に、あたしはともかくドランクを同行させるのは以後避けたい。だからもう良い。
 それをどうやって伝えよう。そんな事を考えていると、あたしは家族からの手紙を落としてしまっていたようだ。ドランクが拾って渡してくれる。
 家族……そうだ、全部打ち明けてしまえば良いのか。
 食事を摂っている間に、頭の中で話す事をまとめようと思ったのに、ドランクは相変わらず下らない話をするし、酔っ払いには絡まれるしで、散々だった。酔っ払いがあたしのマントを掴み、また落ちた手紙を拾った時、ドランクの瞳が強く見開かれたのをあたしは見逃さない。
「はい! そこまで~! ね?」
 口調こそいつもの軽いものだったが、ドランクは本気で酔っ払いを締め上げる。
 ……知っていたのか。それが大事な物だって事。
 酔っ払いを追い遣って店を出た。少し喋った後、珍しくドランクも黙り込む。あたしが話し始めるのを、待ってくれているかの様に。
「…………だから、お前が無理して仕事をとってくる必要はない」
 結局話したい事がまとまっていなかったので、ずるずると昔の思い出話をしてしまった。ドランクは時々言葉を詰まらせるあたしに、優しく相槌を打って続きを促してくれた。
 一通り話し終わると、ドランクはいつもの調子に戻る。うっかり手紙にドランクの事を書いていると言うと、ドランクは益々調子に乗った。
「ひとの話を聞け!」
 あたしは悪い癖で剣を抜いてしまう。本当はあたしの剣なんて簡単に避けられるくせに、ドランクは大人しく突かれる。
「痛っ……いけど、今は痛くない!」
「お前……!」
 その笑顔は誰かを騙すためのものではなかった。次の言葉が出なくなったあたしを、ドランクはまたからかう。
「もう知らん! 別の店で飲みなおす!」
 今の表情を肴に、静かな店で強めの酒が飲みたい。
「待ってよスツルム殿~」
 付いてくるのか。静かに飲むのは無理そうだ。
 ちょっかいをかけ続けるドランクの相手に疲れた頃、あたしは、どうしても訊きたくなってしまった。
「お前はどうしてそこまでしてくれたんだ」
「さっきも言ったでしょー。別に無理して仕事取ってきてないって」
「傭兵の仕事の方じゃない」
「あー……」
 ドランクは言葉を濁す。
「正直に言え」
「やだよ~多分スツルム殿怒るから」
「怒らないから言え」
 あたしは、何を言われても受け止めなくちゃ。それがあの日の償いだ。
「絶対剣でツンツンしない?」
「しない」
「わかった」
 ドランクは少しだけ間を開けて、語り出す。
「僕はね……スツルム殿が傭兵の仕事をしてる姿を、尊敬していたんだ。お店の女の子達を悪く言うつもりはないけど、スツルム殿にはね、安易に体を売って身を立てるようにはなってほしくなかった」
「……そうか」
 じゃあ最初から辛い事をさせてたんだな。俯いたあたしに、ドランクは明るく優しい口調で続ける。
「でもまあ、据え膳食わぬは男の恥じゃないけど、あんなに誘われちゃったら断れないし、一度興奮しちゃったら我慢出来なくて……。お金はね、どうせ遊びに使ってしまう分だったから、必要としている人に渡せて良かったと思ってるよ。相応の良い思いもさせてもらったしね」
 嘘だな。あたしがドランクに買ってくれと頼む事はあれど、ドランクがあたしに売ってくれと頼んだのはあの一度切りだ。ドランクにとっては、きっと抱く女なんて誰でも良かった筈。
「最後はできてないだろ」
「良いよ良いよ。僕はあの時は支払ってないからね。それに……」
 ドランクが言葉を切った。見上げると、切ない表情の中に葛藤が見て取れた。そのままドランクの心が、脆く折れてしまいそうで。
 あたしは足を止め、深呼吸をした。
「……あたしは、ドランクと、したい」
 お前は違うのか?
 あたしが立ち止まった事に気付かず、数歩進んでからドランクがその言葉に振り返る。驚いた顔。見開かれた一つだけの瞳。
「えぇ!? やっぱり酔ってるんじゃない!?」
「茶化すな!」
「痛っ!」
 素直じゃないドランクを刺す。いや、刺している自分も素直じゃないのは百も承知だが。
「えー……本当に僕で良いの?」
 言いたい事は解る。種族の違い、仕事上の立場。このまま昔の事は忘れてしまった方があたしの為になる。そう言いたいんだろ。でも。
「お前が良い」
 剣を下ろすと、ドランクが微笑んだ。
「そう。じゃあ、行き先は飲み屋じゃないね」

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