宇宙混沌
Eyecatch

スツルムの上客 feat. Sturm [2/6]

 寝間着の下に手が入ってくる。まずは上半身を脱がされた。続いて下も。売ったのだから隠してはいけない、と思いつつも、やはり恥ずかしいので手で胸を覆う。
 ドランクも彼のベッドに服を脱ぎ捨てて、再びあたしのベッドに上がってきた。あたしの上に馬乗りになろうとして、髪を括ったままだった事に気付き、微笑んで紐を解く。少しだけ、ドランクの事をナンパしてくる女共の気持ちが解った。色気があるのが悪い。
「痛かったら言ってね」
 いつもと変わらない口調。なのに彼の視線も、息遣いも、知らないものだった。再び恐怖心が湧き上がる。
 それでも、頷くしかなかった。体の上に置いていた腕をどかされる。胸から腰へ、腰からお尻へ、ドランクの手が這っていく。
「ちゃんと解してあげるから」
 安心させる為にそう言ったのだろう。けど、それは逆効果だった。自分でも殆ど触ったことが無い場所に触れられて、体が強張る。
 その間ずっと、ドランクはあたしの顔を見ていた。奥を触られたりしたら、自分がどんな顔になるのか見当もつかない。見ないでほしい。
「ドランク、その、火を消してほしい」
「なんで?」
 恥ずかしいから、と素直に言えない。
「言ってくれなきゃ解らないよ〜?」
 解っているくせに。苛立ちを覚えてそれを言葉にしようとした時、未知の衝撃が走った。勝手に腰が浮く。
「ん〜〜〜〜」
 指を入れられた、というのは後から気付いた。
「おやおや? ずいぶん敏感なんだねぇ」
「うるさい! 早くしろ!」
「もぉ〜。強請るならもうちょっと可愛く言ってほしいなー」
 あたしの中で指が動く。認めるのは癪だが気持ち良い。案外、体を売るのはそんなに苦しくないのかもしれないな。
 だんだん何も考えられなくなっていく。自分がどうしてこんな事をしているのかも、忘れていく。
 ドランクが胸を掴んで吸い付いてきた。思わず漏れた声が自分のものじゃないみたいで、再び理性と恐怖心が戻ってくる。ドランクの肩を押してやめさせようとしたが、今度は中の指の動きが速くなる。力が入らない。
 ドランクが何か言ったような気がした。続いて、下腹部に奇妙な感覚を覚える。その時やっと、ドランクがとっくに指を抜いていた事に気付いた。
 何かが濡れた下腹部を擦っている。やがてそれは侵入路を見つけ、身が裂ける痛みがあたしを襲った。声を上げるのを我慢できない。
 最初の痛みを過ぎると、痛みというよりも今まで感じた事の無い強い刺激が伝わってきた。ドランクがあたしの中に入ってくる。
「スツルム殿」
 いつもの軽快さを失った声。呼ばれてなんとか、視線だけを彼に向けた。
「スツルム殿の中凄く気持ち良いよ。大金払った甲斐があるってもんだ」
 その言葉を咀嚼する暇も与えず、ドランクは思い切り腰を打ち付けてきた。想像していた痛みとは違う、しかし痛いのには変わりなく叫んでしまう。
「痛いよね? でもごめん、止められないや」
 何を言ってるんだ? しかし激しく律動されては言葉にならなかった。
 せめてペースを落としてほしくて、ドランクの腰に手を伸ばす。その指先は届く前にドランクに捕まると、頭上で拘束された。
 顔の位置が近付く。ドランクは暫くあたしの胸元を見ていたが、やがて前を向く。強い視線があたしを貫いた。見た事が無い表情で、ただあたしの顔を凝視していた。
「可愛い」
 ドランクの口から言葉が漏れる。普段の茶化すような口調ではなかった。
 交わっている時間はそんなに長くなかったに違いない。しかし感覚的には長く長く感じられた律動が止まった時、あたしはもう何もかも奪われていた。
 そんな真剣な目で言うなんて、卑怯だ。
 頬に口付けが降ってくる。ドランクが何か言い、汚れた体を拭いて布団をかけてくれた。そのままぼうっとしていると、灯りが吹き消される。それで我に返った。
「ごめんね、怖かった?」
 ドランクはこのまま共寝をするつもりらしい。横を向いて寝ているあたしの背中にそう投げかけてきた。
 怖かった。でも、あたしはそうは答えなかった。
「だったら、もうこういう事するのはやめ……」
「いや、また困ったら、頼む」
 怖かったけど、嫌じゃなかった。
「そぉ? じゃあ……」
 ドランクが腹を撫でてくる。さっき渡されたお金、あれは一晩中相手する場合の相場なんだろうか。今更ながら下腹部に明確な痛みを覚える。
「おい、まだやる……」
「次からも同じだけ払うから、僕以外には売らないでくれる?」
「え」
「え?」
 ドランクが自分で言ったくせに、自分で驚いている。一体何なんだ。
「勿論……。客を増やして傭兵仲間に気付かれたら困るからな」
 適当に嘘をついて、あたしは鼻まで布団に戻った。ドランクはその様子を楽しそうに見ていたが、突然大きな声を上げる。
「あっ」
「なんだ急に」
「いや……薬も何も準備してないのに中出ししちゃったと思って……」
 なんだそんな事か。まあ、明日薬を買って飲めば……。
「でも大丈夫! 異種族だから滅多に子供は出来ないよ」
 ……そう、だった。ドランクはエルーン、あたしはドラフ。子供を授かる事は、願っても出来ないんだった。
 勝手に涙が出てくる。あたし、何を期待してたんだろ。
「ごめんねぇ!? 中出しそんなに嫌だった? 出す前に訊けば良かったねごめんごめん」
「そうじゃない……」
 涙を見られる前に布団の中に潜る。ドランクの手が離れていって、とてつもない寂しさに襲われた。
 目を閉じて眠ろうとする。それでも、その夜はずっと、自分の事を見つめるドランクの顔が瞼の裏から離れなかった。

闇背負ってるイケメンに目が無い。