スツルムの上客 feat. Drang [5/6]
「だから、お前が無理して仕事をとってくる必要はない」
スツルム殿のお金が何処に流れていたのか。それを彼女が語ってくれたのは、何年も後になってからだった。
僕はなんとなくその答えに勘付いていた。だからスツルム殿の話を聞いても驚かなかったし、寧ろほっとした。もう、夜の仕事の客にならなくても済む。
「紹介も何も……手紙で、お前の話はしてる」
「えっ!?」
その客の事を家族への手紙に書く倫理観には驚いたけどね……いや多分同僚としての話しか書いてないだろうけど……。
それでも純粋に嬉しいな。男女の情を抜きにすれば、僕はスツルム殿の事をものすごく好きな訳だし。
テンションが上がって軽く滑った僕の言葉達に対して、いつもの様にスツルム殿は剣を抜く。嬉しい。何年もかけて修復してきて、あの日の傷が完全に塞がったと思えた。
別の店で飲み直す、と言う彼女を追いかける。スツルム殿は暫くいつもの天邪鬼になっていたが、急に神妙な面持ちで訊いてきた。
「お前はどうしてそこまでしてくれたんだ」
「さっきも言ったでしょー。別に無理して仕事取ってきてないって」
「傭兵の仕事の方じゃない」
「あー……」
正直に言うべきか、言わないでおくべきか。
「正直に言え」
心を読んだかのようにスツルム殿が凄む。
「やだよ~多分スツルム殿怒るから」
「怒らないから言え」
「絶対剣でツンツンしない?」
「しない」
「わかった」
僕は語った。昼間スツルム殿が仕事をしている姿を尊敬している事。そんな君に夜の仕事はさせたくなかった事。なのに欲望に打ち勝てずに関係を続けてしまった事。
「お金はね、どうせ遊びに使ってしまう分だったから、必要としている人に渡せて良かったと思ってるよ。相応の良い思いもさせてもらったしね」
「最後はできてないだろ」
最後……路地裏で無理矢理しようとした日か。
「良いよ良いよ。僕はあの時は支払ってないからね。それに……」
皆まで言えなかった。スツルム殿が子供好きなのは知っている。けれど、僕達の間に子供を授かる事は絶望的だ。だからやっぱり、このまま終わりにしよう、って。
「……あたしは、ドランクと、したい」
スツルム殿が足を止めたのに気付くのが遅れた。振り返ると、頬を染めたスツルム殿が自分を見ている。
「えぇ!? やっぱり酔ってるんじゃない!?」
「茶化すな!」
「痛っ!」
やっぱりまた刺される。本気なのか。
スツルム殿だってもう子供じゃない。僕とでは夢見た家族の形が得られない事も承知の筈だし、当然恋に恋しているわけでもないだろう。
「えー……本当に僕で良いの?」
信じられなくて、初めてした時の様に念を入れて確認する。
「お前が良い」
スツルム殿が剣を下ろす。
「……そう。じゃあ、行き先は飲み屋じゃないね」
♥などすると著者のモチベがちょっと上がります&ランキングに反映されます。
※サイト内ランキングへの反映には時間がかかります。