宇宙混沌
Eyecatch

スツルムの上客 feat. Drang


「ところでスツルム殿、その服もう小さいんじゃない?」
 何度目かの交渉の翌朝、いつもの服に着替えていた彼女に声をかける。案の定、胸を押し込むのに苦労していた。
「今少し余裕が無いから、あたしの服は後だ」
 後、という事は先がある。僕が払っているお金は、誰の為に使われているのだろう。
「貢いであげようか?」
「いい。今回も沢山貰ったし」
「言い方が気に入らないなら、傭兵の相棒としての僕からのプレゼントって事で」
 無理矢理言いくるめ、街へと連れ出す。服屋を見つけ、彼女の体形に合わせて仕立てる様に頼んだ。
 待っている間に別の買い物を済ませ、店の前に戻ると、そこには胸と脚を大きく見せた格好のスツルム殿が立っていた。
「買い物は済んだのか?」
 言葉を失っていた僕にスツルム殿が問いかける。
「え、うん。ていうかその衣装、露出多すぎない?」
「そうか? 普通だと思うけど……」
 普通とは。しかし言われてみればこの程度はこの世界では普通の様な気がしてきた。
「支払ってくれ」
「そうだった」
 服屋に代金を支払い、買い物を続ける。いやしかし、何故だかとても目のやり場に困る……。
「スツルム殿、それだけだと冬になったら寒いんじゃないかなあ? 茂みとか歩くのに生脚もチクチクしそうだし」
「……似合わないと言いたいならそう言え」
「そんな事思ってないよ! ただもうちょっと布で覆ってくれると良いなぁと……」
「何を今更」
 そりゃ僕は全部見たけれども。でもその格好は他の人にも見えるよね?
 やれやれ、と首を振ると、視界の隅に別の服屋が見えた。こっちは既製品を売っている店だ。そちらに進路を変える。
「ドランク?」
「スツルム殿、良さそうなマントがあるよ。これも買ってあげる」
「まいど! ああ、このマントなら、彼氏さん用にサイズ違いもありますよ、揃いでどうです?」
「こいつは恋人じゃない! ただの同僚だ」
 店主の言葉に、後ろからスツルム殿が叫ぶ。店主は「そりゃ失礼」と苦笑し、僕も無理矢理笑って見せた。
 そうだ。僕はスツルム殿のただの同僚。そして、客だ。
「でも、僕の分もいただくよ」
「ドランク!」
「僕も欲しかったんだよ。それに、僕のお金の使い道まで口を出すの?」
 そうするつもりは無かったのだけど、言い方がきつくなってしまった。スツルム殿はそれ以上何も言わなかった。
 店を出るなりスツルム殿にマントを着せ、腕を引っ張って狭い路地へと引き込む。街路からは見えない場所まで来た所で、建物の壁に押し付けた。
「ドランク……」
「おっぱいでして。服着たまま」
 自分もマントを羽織り、外から見えない様にズボンを緩める。
「服……汚したくない……」
「じゃ、出す前に言うから飲んで」
「ドランク……」
「服代だけじゃできないんなら、幾らならしてくれるの?」
「そういう事じゃなくて……」
「じゃなくて?」
 その時僕はどんな顔をしていたんだろう。少なくとも僕は、その時のスツルム殿の表情を、未だに忘れる事ができない。
「仕事に余計な感情は抱かない方が良いよ」
「…………」
 スツルム殿がしゃがんで胸を寄せる。僕の苦手な長い沈黙。結局その時は出せなかった。

 それから、スツルム殿が僕に体を売ってくる事は無くなった。僕もそういう事が起こらない様になるべく努力した。スツルム殿の所持金が枯渇しない程度、かつ無理の無い範囲で傭兵としての仕事を受けては彼女を誘った。自分の身の回りの品を買い替える余裕が無い彼女に、僕が欲しかった物が安かったからつい、と言っては揃いの物を買い与えた。
「あたしの分は買ってこなくて良いって言ってるだろ」
「え~僕とスツルム殿の仲じゃない」
 僕は執拗にスツルム殿に馴れ馴れしくした。恋人に間違えられる機会は益々増えた。でもその分、天邪鬼なスツルム殿の方から距離を取ってくれるようになった。
 そうだ、それで良い。体を買った相手に情が移って傷付くなんていう、惨めな思いはもう二度とごめんだ。今でもスツルム殿の事は傭兵仲間として敬慕はしている。けど、できればもう、客にはなりたくない。

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