第4話:Share Your Pain [2/2]
つまり、心理的な感情は共有出来ないが、肉体的な感覚なら共有出来るのだ。
そう気付いてしまったドランクは、今日はいつもの様に彼女の胸に顔を埋めて眠る事なんて、到底出来ないと思った。
「……おい」
ダブルベッドの端で寝ようとするドランクを不審に思い、スツルムが声をかける。
ドランクだって、彼女の心臓の音を子守唄にしたいのは山々だ。だが、意識してしまった以上、興奮が収まってくれるとは思えない。
「もっとこっちに来い。寝てる間に落ちるぞ」
「そんなに寝相悪くないよ。知ってるでしょ?」
ただ事実だけを淡々と返す。
「……そうだな」
スツルムは枕元の明かりを消す。布団に潜り、ベッドの中央から、ドランクの方にゆっくりと移動した。
ドランクの背中に柔らかい肉体がぶつかる。彼の中で何かの糸が切れた。
「スツルム殿」
寝返りを打ち、その小さな体を圧し潰す様に抱き締める。スツルムの腿に硬い何かが押し付けられた。
「ド、ドランク?」
スツルムだって、期待していなかったと言えば嘘になる。毎夜同じ布団の中で過ごすうち、いつかこうなる日が来るのではないか、と思っていたのは事実だ。しかし、いざとなると尻込みしてしまうのは、いくら相手を愛していようと、経験の無い乙女には致し方ない。
「スツルム殿、まだ僕の事好き?」
「……嫌いだったら同じ部屋で寝る訳ない」
「じゃあ、良いよね?」
既にドランクの息は荒い。何を問われているか解らない、なんて、今更かまととぶったって仕方無いだろう。
「……責任は取れよ」
我ながら可愛くない言葉しか出ないな、とスツルムは唇を噛んだが、ドランクが気にした様子は無い。彼にはもう、どんな言葉も届かないのだ。それが伝える情報以外は。
汗ばんだ肌に掌を這わせる。皮膚と皮膚の間で交わされる感覚。それはきっと、今自分が感じているものを、同じ様に彼女も感じている筈。
ドランクはそれに幸福を感じる事ができた。元より、自分の内側から自然と湧き出る、自分自身に対する感情は残されていた。だから時には自己嫌悪もするし、機嫌良く鼻歌を歌ったりもする。
これは肉欲が満たされつつある事への幸福感だ。敏感な所に触れる度に跳ね上がる小さな体躯を見て、愛らしいとは思えないが、厭らしいとは感じている。その証拠に、男の証は既に限界まで膨れ上がっていた。
程良く濡れたスツルムの、まだ誰も貫いた事が無いらしいその場所に、それを宛てがう。一気に奥まで入れてやる方が良い、と何処かで聞き齧った情報を思い出し、力強く押し込もうとした。
「やあっ! 痛い、やめっ……」
「痛い?」
悲鳴の様な声を断続的に上げ続けるスツルムに、ドランクは笑いかける。
「僕も結構痛い」
体格差の所為もあるだろうが、処女の体は思っていた以上にきつく締め上げてくる。ドランクの方も、時折耐え切れず喘いだ。
それでも、同じ感覚を共有しているという状況が、どうにも堪らなく心地良かった。煙草なんかよりずっと良い。
無理矢理一番深くまで挿入して、動きを止める。顔を寄せれば、スツルムは泣いていた。
この感情は、どれだ? 下半身に血を持っていかれて回らない頭で考える。単に痛いから泣いているのか、それとも自分に処女を捧げた事を今更ながら後悔したか。
「ねえ……」
君の今の感情は何? 後学の為に問おうと顔を覗き込むと、首に腕を回された。顔が限界まで近付き、唇と唇が触れ合う。
ああ、そういえば口付けもまだ済ませていなかったな、と、漸くドランクは思い出した。
腕を下ろしたスツルムに、ドランクは囁く。
「今凄く煙草やめられそうな気分」
「そうか。そのままやめてく……んあっ」
ドランクが腰を動かしたので、スツルムの言葉は嬌声に変わってしまう。
溢れ出てくる蜜に、ドランクの感じる刺激は徐々に快楽へと変わっていった。己の動きに合わせて鳴くスツルムに尋ねる。
「気持ち良い?」
「あっ、あっ、わか、んない、あっ……」
「まだ痛い?」
「んっ……」
「そっか……」
ドランクは動きを止めずに、スツルムにもう一度口付けを落とした。
「じゃあ同じだけ僕にも痛い目見せて」
スツルムの眼光が、一瞬鋭くドランクを射抜いた。
初めてを好きな男に捧げられて幸せだ。でもその気持ちをこの男は理解出来ない。この男は目の前の女に興奮しているだけで、今も自分を愛している訳ではない。彼との間にある心の隔たりが憎くて仕方がない。それでも幾度も重ねられる唇は心地良い。
ぐちゃぐちゃだ。こんな思いをするくらいなら、いっそ感情なんて無い方が良いのかもしれない。
そう思ってしまった自分に、スツルムは内心悪態をつく。彼からそれらを永遠に奪い取った立場で、言って良い事ではないだろう。
スツルムは瞼を閉じると、黙ってその背中に爪を立てた。
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