第6話:Mercenary Meets Mercenaries [2/2]
賞金首を提出し、貰った報酬で値が張る煙草を買った。宿の窓辺で、今日集めた情報を思い起こす。
結論、彼等は「残虐三兄弟」という名前で裏社会では知られているそうだ。普段は傭兵業をしつつ、時々人気の無い場所で殺戮ショーを行う、一応は音楽バンドらしい。
正直、日陰者にしておくのは勿体無いと思った。たった一振りで首を斬り落とす剣の腕は並大抵のものではない。スツルム殿でさえ両手を使うし、あんなに綺麗に分離はできないものだ。
なかなか裏社会で出回る情報には辿り着けない事が多いが、彼等の情報は比較的簡単に得られた。曲がりなりにも楽器を持っていたので音楽関係者だろうと思い、ライブハウス付近で聞き込みをすれば、彼等のファンにも接触できた。
殺戮ショーなどやっていて、地元の憲兵団や秩序の騎空団の目に留まらないのだろうか。その疑問にファンはこう答えた。奴等は悪人と罪人しか処刑しない、と。
「処刑ねえ……」
結局やっている事は正義のヒーロー気取りではないか? とファンに伝えると激怒された。
「まあでも、僕よりは随分まともか」
口に含んだ煙を吐き出しながら振り返る。ベッドには一つの死体があった。涎を垂らして半分開いている口は、先程までドランクにお気に入りのバンドの話をしてくれていた。
どれだけ稼いでも、どれだけ殺しても、この心が満たされる事は無い。湖の水位は以前の半分になったまま、小波一つ無く凪いでいる。
ちょっと面白いな、と思った気がしたんだけど。
溜息を一つ吐き、煙草の火を消す。空が白む前に、これをどうにかしなければ。
「あの傭兵、ムカつきましたね。GIGに使わなくても殺してしまえば良かった」
ジャスティンはベンジャミンに同意を求めたが、返って来たのは無言だ。
「……相手を見ただけで白旗を上げるなんて、貴方らしくないじゃないですか、ベンジャミン」
「お前が俺を定義するか?」
ベンジャミンは侮蔑の目でジャスティンを見下ろす。
「ああ、それとも知らねえのか。あいつは『青い髪のエルーン』だ」
「馬鹿にしてるんですか? そんなの見れば判ります」
「違えよ。『青い髪のエルーン』てのは特定の傭兵の事を指す通り名だ。表の顔は何て言ったか……」
「スツルムとドランクだ」
バレンティンが口を挟む。
「それだ。そのドランクの方が、単独では『青い髪のエルーン』と呼ばれている」
ベンジャミンは物欲しそうなバレンティンの顔に一発見舞う。鼻血を出してよろめいたバレンティンは嬉しそうだ。
「お前、物覚えは良いんだからもっと……」
何かを言おうとして、苦々し気にやめる。ジャスティンが眉を寄せて、そんなベンジャミンを睨み付けた。
「それで? そのエルーンってのはそんなに凄いんです?」
「スツルムとドランク自体が有名だが、ソロでもかなり暗躍しているという噂だ。表の名前を汚したくないのか、裏の仕事をする時はドランクと名乗っていない」
「へえ。どんな事をしてるんでしょうねえ」
「暗殺だの誘拐だの強盗だの……。俺達と違って、標的と見做した相手には容赦無い。例えそれが何の罪も無い女子供だとしてもだ」
言ってベンジャミンは歯を食いしばった。悔しいような、羨ましいような。
お前は、光の下だって歩けるくせに……。
「良いな……そういう奴に思いきり虐められたい……」
「バレンティンは黙っててください」
ジャスティンはバレンティンに石を投げる。またも悦んでいる彼を尻目に、ベンジャミンに冷たい言葉を投げる。
「妙な事を考えてるんじゃないでしょうね?」
「アァ? 当たり前だ」
ベンジャミンは開きかけた心の扉を慌てて閉める。
「……無駄口は此処までだ。練習を再開するぞ」
俺達は最高でなくてはならない。俺達の軌跡を肯定できるのは、俺達自身しか居ないのだから。
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