ドランクは次第に退屈だ、と感じる事が多くなった。日常的に受けていた他人からの刺激を受け付けなくなった精神は、心揺さぶられる事を他の事柄に求めるようになった。
それはドランクにとって仕事であったり、史跡巡りであったり、知的好奇心を満たす事であったりした。最早、感情移入が出来ないので芝居を始めとしたエンターテイメントも面白くない。
どうにも刺激が足りなくて仕方が無い時は、ただひたすら景色を眺めていた。風に流れていく雲や、絶え間無く動き続ける人混みを見るのは、比較的飽きにくい。
人の良い騎空団の団長に、騎空艇に乗せてもらった時も、ドランクは退屈を持て余して空を見ていた。
「そういえば、スツルムももう結婚適齢期じゃない? 他の人と結婚して傭兵引退するーとか言われたらどうするの?」
だから、まだ年端もいかない団長にそう問われて心が揺さぶられた時、心底驚いた。
右目を失ったあの日から、誰の言葉も、それこそスツルムの言葉でさえも心に響いてこなかったのに。更に、スツルムが自分の元を離れてしまう事を想像して、涙まで流したのだから衝撃だ。
不思議な力を持つ少女と入れ替わりで現れたスツルムも、ドランクの涙の跡を見て驚愕した。ドランクは、ほんの少しだけ昔の感覚を取り戻せたような気がして、嘘ではないと信じる言葉を囁いた。
「一緒に空を見てくれたら嬉しいな」