宇宙混沌
Eyecatch

第3章:Love Still Alive


「スツルム殿!」
 鮮血が彼女の髪以外も赤く染めていく。ドランクは追撃してくる魔物の相手をするのに精一杯で、ただそれを視界の隅に見ている事しか出来なかった。
 周囲の安全を確保してから駆け寄る。彼女の目は既に虚ろで、エルーンの鋭敏な耳を押し付けても、もうその小さな体から、命を感じられる音はしない。
 嘘だと言ってほしい。いや、でも、まだ間に合うかもしれない。
 ドランクはただ、もう一度彼女に愛の言葉を囁いて、それに対する答えを聴きたかっただけなのだ。
 彼は傍に落ちていた木の枝を拾い、スツルムの周囲の地面に魔方陣を描き始めた。
 蘇生魔法。心臓が止まって間もないのであれば、まだ肉体と魂は完全には分離せず、完全なる死を迎えた訳ではない場合が多い。そのような状態の相手を、魔法の実行者自身の生命力を糧に、傷を癒し意識を回復させる、高度で危険な魔法だ。
 並大抵の魔法使いが気軽に使えるような魔法ではない。蘇生の為に求められる生命力は、術者の腕や魔力に反比例し、術をかけられる側が死んでからの経過時間や傷の大きさに比例する。下手をすれば術者の方が命を落としかねない。それ故、殆どの地域で禁忌の様に恐れられているか、その実行が法律で取り締まられている。
 それでもやるしかない。彼女を失うくらいなら、自らが持つ何を失っても良い。僕が僕でなくなってしまっても、僕の目に映る全てのものから輝きが失われてしまっても、彼女がまた目を覚ましてくれるのなら。
 魔法陣を描き終え、詠唱すると、魔法陣から光が放たれた。
 それがドランクの右目が見た最後の光景だった。突如右目に走った激痛に手を当てれば、そこにはただ、尋常でない量の血が溢れ出てくる穴がある。
 肉体の方は右目一つで済まされたか。魔法の腕が良くなければ、体の半分くらいは犠牲にしなければならないと聞き齧っていたので、ほっとする。
 だが、まだ魂の支払いが終わっていない。いや、それとも終わっているのだろうか。精神の方はダメージを受けても、肉体とは違って即時に感知する事が出来ないから厄介だ。
 魔法陣の光が益々増していく。強烈すぎる光と痛みに、ドランクは気を失った。
 そして次に彼が目覚めたのは、病院の床の上だった。

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