宇宙混沌
Eyecatch

Can't forget


 あたし達はその島を離れる事にした。男達に支払ってもらえた前金と騎空艇の費用は少なかったが、それで行けるだけ遠くに行こうとなった。長旅になるので、個室のある乗り合い騎空艇のチケットを買う。
「お待たせースツルム殿」
 坊ちゃんみたいな格好、と言われたのが気に食わなかったのか、ドランクは出発前に、服ごと身に着けていた品を売りに行っていた。揃いで買ったマントも銃撃された時に穴が開いてしまったので、処分した筈だ。
「…………」
 現れたドランクは、随分傭兵らしい服装にはなっていた。しかし、何だろう。良く言えばふさふさ悪く言えばぼさぼさに見える髪を下ろしているせいで、余計にこう見える。
「ださい……」
「ひど! スツルム殿だって人の事は言えないからね!?」
「そうじゃない……」
 また言葉選びを間違ってしまった。実際田舎臭くなったのは否めないし、そのだぼだぼのズボンの良さも解らないが、そう言いたかったんじゃない。
「その……お前は顔が良いから、前みたいな服も似合ってたぞ」
 ドランクの顔がみるみるうちに輝いていく。やっぱり言わない方が良かったな。
「『顔が良い』!? スツルム殿には僕がそう見えてるの!?」
 いや、実際良いだろ。昨夜も飲み屋であたしが目の前に居るのにナンパされてたし。垂れ目はあたしの好みじゃないがな。
「それって僕の事好きだからそう見えてるんじゃないの?」
「うるさい!」
 二、三発剣で突いて漸くドランクはその話をやめた。その時、ドランクの荷物から白い上質な布がはみ出している事に気付く。
「おい、これ……」
 引っ張り出すと、穴の開いたマントだった。
「ああ、これはね。折角お揃いだし、思い入れもあるし、みたいな?」
 あたしの機嫌を伺いながら言う。このマントには良い思い出も悪い思い出もあるから、解らんでもない。
「糸があったら繕ってやるぞ」
 生憎今は手持ちが無いから、次の島で買わないとな。
「本当!?」
 なんだ。突然益々テンションを上げたドランクに、あたしは眉根を寄せる。
 ドランクは荷物を地面に置き、蓋を開けて何かを探し始めた。
「さっき綺麗なのが売ってたから買ったんだよ。スツルム殿、時々夜中にお裁縫してるもんね」
 ドランクの細い指が目当てのものを探り当てる。取り出されて渡されたそれは、刺繍糸と何枚かの端切れ。
「ありあわせの特売品だけど、凄く良い素材だよ。正規品はとても買えな……」
「ありがとう」
 ドランクの言葉を遮って言った。ありがとう、あたしの事を見ていてくれて。ありがとう、あの時守ってくれて。
「どういたしまして。あ、艇が来たよ。乗ろうか」
 ドランクは荷物の蓋を締め、あたしからマントを受け取って歩き出す。あたしも急いで糸と布を自分の荷物に入れると、後を追った。
「待ってくれ」
 いつもはドランクの方が置いて行かれる立場のくせに。追いつき、少し怒って顔を見上げると、幸せそうに微笑んでいた。
 君に忘れられるのは悲しいな。一瞬だけ見えた翳りに、少し不安になっていたが、この分なら当分大丈夫だろう。
 勿論あたしも、お前のくれた優しさを忘れない。

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