宇宙混沌
Eyecatch

Can't forget [2/3]

 バキッ。嫌な音がする。目を開けた瞬間、ドランクが此方に倒れ込んできた。
 パン! パパン!
 直後に聞こえる複数の発砲音。
「ごめん! 胸に破片刺さらなかった!?」
 てっきり剣が刺さって死んだと思ったドランクが起き上がって顔を見せてきた。こいつ殺しても死なないのか?
「破片?」
 理解が追いつかない頭で呟くと、ドランクが自分の胸元を指す。胸飾りの鎖が切れ、大きな水色の石は粉々に砕けていた。
「流石はスツルム殿。当てない技術もしっかりしてるね」
 ドランクはあたしの目を見ずに起き上がると、森の中を睨んだままあたしの手を取って起こした。
「ところで、当てたくても当てられなかった人達も、居るみたいだねぇ」
「へっ。突然立ち止まって避けるとはな。気付いてやがったか」
 森の中から歩いてきたのは、数人のドラフとヒューマンの男達。囲まれた。
「お前等!」
 その半数は、あたしを雇った者達だった。
「勿論だよー。まあ、君達も気配を消すのはだいぶ得意なようだね。僕がエルーンじゃなかったら死んでたかも。……とは言え、スツルム殿ですら剣を当てられない僕を撃とうだなんて、無謀にも程があるんじゃない?」
 人を苛つかせる笑顔でドランクが言う。宝珠を構え直した。
「なんだとぉ?」
「それで? 僕達を騙して戦わせようとした理由を教えてくれるかな?」
「道理で…」
 依頼内容に比べて妙に金払いが良いと思った。あたしはドランクの後ろに回り、剣を構える。
「スツルム殿は条件の良い仕事があるとすーぐ飛びついちゃうもんねぇ……って痛い! 逃げられない時はやめてよスツルム殿!」
 とりあえず一発刺しておいた。
「誰が教えるかよお。これから死ぬって奴に」
「大人しく喋って、約束してた報酬置いてってくれたら、見逃してあげないこともないよ? 見た所、同業者みたいだし、よしみでさ」
「ハッ!」
 リーダー格らしいドラフの大男が鼻で笑う。
「『見た所、同業者』? そんなどこぞの坊ちゃんみたいな格好で良く言うぜ。死んでくれたら身包み剥いで服に付いてる飾りは売ろうと思ってたのによ」
 言って男はあたしを睨む。あたしは睨み返してやった。
「えー。そもそも僕、君達に命狙われるほど恨み買うような事した~?」
「ああ、してるさ」
 さっきとは別の男が凄んだ。
「お前等が来てから俺達に仕事が来なくなったんだよ!」
「片っ端から仕事奪っていきやがって」
「皆、お前等に頼む方が確実だの、人数が少なくて良いだの言いやがって……」
 次々と男達が捲し立てる。確かにこの所、同じ土地に留まりすぎていたかもしれない。だとしたら少し申し訳ないな、と思った。
「なるほどねぇ。自分達じゃ敵いそうにないから、僕達が単独行動を始めたのを見計らって、別々に声をかけたって事か」
 確かに、本気でやり合って運良くどちらか片方が負傷してくれるだけでも、あたし達が仕事を独占するような事はなくなるからな。
「己の実力をきちんと把握してるのは、傭兵としてとっても良い事だと思うよ!」
 かといって、最終的に寄って集って暗殺しようとする程度では高が知れている。
「黙れ青臭いガキが!」
 ドラフの大男が一歩近付いた。それに合わせて他の男達も包囲を狭めてくる。何人かはドランクに向けて銃を構えた。
「営業してるのは主に男の方だって聞いたからな。お前には死んでもらって、身包み剥がせてもらうぜ。嬢ちゃんは良かったら俺達の仲間になりな。嬢ちゃんだってこんなひょろいエルーンよりドラフの筋肉に抱かれる方が幸せだろ?」
「なっ……」
 言いたい事が色々ある。だがあたしが反論する前に、ドランクの手が動いていた。
「うわっ! あちち、あち……」
 大男が着ていた服の右袖が突然燃え上がった。男は慌てて地面に転がって消火する。
「油断して当てられるようじゃ、戦場でお喋りをする資格は無いんじゃない?」
 仲間の悲劇に一瞬気を取られたならず者達が、今度こそドランクの頭を狙って引鉄を引こうとした。しかし指がかけられる音が聞こえる前に、ボウッと大きな音があたし達を包み込む。
「うわあ!」
「火が……」
「囲まれた!?」
 ちょうどならず者達の一歩後ろで炎が上がる。熱さに驚いて銃口を逸らした男達の手を、ドランクの魔法が打つ。次々と銃が地面に落ちた。
「ありがとうスツルム殿。この規模の炎を延焼させない様にするには物理的な陣が必要でね」
「……構わん」
 それならそうと言えば良いのに。あたしの剣が刺さった木々、あれが魔法陣になっているのか。ドランクが一発外した攻撃はあたしが刺し損ねたやつだな。
「いやー、気付いてると知られたらいつどこで撃たれるか解らないからね。視界を広げた所に来るまでは教えられなかったんだよ」
 相変わらず他人の心を読んだような喋り方をする奴だ。
「撃たれるタイミングと位置が解ってないとスツルム殿を守れないからね。それで、どうする?」
 最後の問いかけはあたしに向けた物ではなかった。
「君達の方が囲まれちゃったねえ。この狭い中じゃ僕の魔法からもスツルム殿の剣からも逃げられないんじゃないかなー」
 口調は軽々しいが、その声に含まれる響きは重い。相当怒ってるな、これは。
「……っ!」
 なおも抵抗しようと、落とした銃を取ろうとした男の指先に、再度威嚇魔法を当てる。銃はその勢いで炎の中に飛んで行った。それを見た仲間の一人が情けない声を上げる。
「い、命だけは助けてくれ! 俺には妻と息子が!」
「…………ドランク、」
 もうこの辺にしてやれ。そう言おうと振り返ると、優しい笑顔が降ってきた。
「僕達はこの島を去るよ。示談金として、騎空艇の費用だけ置いて行ってくれるかな」

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