戻れない二人
「スツルム殿の所為じゃないよ」
ドランクは飛び立つグランサイファーを眺めながら、隣でカチャカチャと腰の剣を気にしているスツルムに言った。もう何度目になるだろう。
「あたしの所為だ」
頑なな答えが返ってくる。
「あの夜あたしは浮かれてて……剣の手入れが疎かになったんだ。それで……」
次の日の仕事で剣が折れて、致命傷を負った。それを無かった事にする為に、ドランクは右目と感情の一部を失った。
「そんな事言ったら、元を正せば告白した僕が悪いって事にならない?」
「ならない」
ドランクはスツルムの頭を撫でる。とりあえずこうしておけば、多少はスツルムの気が和らぐ事を知っているからだ。
「……取り戻さない方が良いかもしれない、と言ったな」
「言ったね」
「そんな訳無いだろう。確かにアオイドスにとっての過去は忘れたいものかもしれない。でも、お前の右目や気持ちは違うだろ?」
「同じだよ。僕は二度と君を死なせるわけにはいかない」
スツルムは拳を握り締める。頭の上に乗せられた手を振り払った。
「……だったらどうすれば良いんだ! あたしは! ……あたしが死んででも、お前の心を取り戻したい」
他人に対する感情が湧かない人生なんて。誰かが……あたしが側に居ても、心の距離が無限遠の世界をまだこれから何十年も生きないといけないなんて。
心さえあれば。あたしはこの世に居なくても、ドランクはまた誰かと心を通わせられる。ひとりぼっちにならなくて済む。
「……スツルム殿。僕に一つ考えがあるんだ」
ドランクの言葉に、スツルムは首を傾げて続きを促す。
「団長さんの事なんだけど……」
ドランクは腰を屈める。耳打ちされた内容にスツルムはたじろいだ。
「勝算はあるんだろうな?」
「仮定が多いけどね。失敗したら、また僕が助けてあげるよ」
……あれを何度も繰り返して、自分もドランクも無事で済むのだろうか。
それでも、他に希望は見当たらない。スツルムは、ドランクの一つだけになった瞳を真っ直ぐに見て頷いた。