宇宙混沌
Eyecatch

第7章:魔法を覚えたジータちゃん


「ライヴお疲れ様ー」
 港の近くのレストランを貸し切って、団員皆で食事を摂る。島を離れる際の最後の食事は、必ずその地の料理を、というのが我が団のルールだ。
「ねえねえスツルム殿、アオイドス君のサインとか貰わないで良いの?」
「別に良い。荷物が増える」
 スツルムとドランクが隅の方の席に座ったのを見つけ、私はアオイドスを連れてその机に相席した。
「さっきスツルムがファンだって聞こえちゃって」
 そう言ってスツルムの隣にアオイドスを座らせると、スツルムは私に向かって鋭い目と低い声で凄んだ。
「お前……っ! まさかさっきの話全部聞いて――」
「まあまあ、落ち着いてスツルム殿」
 今にも剣を抜きそうなスツルムを、ドランクが向かいから肩を押さえて座らせる。
「え、えと、何の話? 私、ドランクがスツルムにファンなの? って訊いてた事しか聞こえてないよ!」
 我ながら嘘が下手だと思う。でも、ドランクは意味深な視線を送ってきたけど、スツルムはそれで丸め込めたみたい。
「俺のファンか。今日のライブも最高だっただろう?」
 アオイドスの言葉に、スツルムは申し訳なさそうに眉を下げる。
「実は、お前の歌を聴くのは初めてなんだ。仕事が忙しくてな」
「え、じゃあどうやってファンになったの?」
 私はドランクの隣に腰を下ろす。
「知り合いがファンで、歌詞を見せたり真似して歌ってくれたりした」
 じゃあ、スツルムはアオイドスの声も姿も知らなくて、ただその音楽を好きになったんだ。
 アオイドスは気を悪くした様子も無く、寧ろ理解を示した。
「ライヴを観に来れない未だ見ぬファンに、俺の最高のGIGを届けられないのは、いつも心が痛い……」
 何か良い方法が無いだろうか、と考え始めたアオイドスを尻目に、ドランクが店員を呼ぶ。それぞれ注文を終えると、ドランクが切り出した。
「一昨日の今日だからまだ読み終えてないだろうけど、団長さんの魔法の勉強は進んだ?」
 その問いに私は胸を張る。
「昨日一日で読み切っちゃった! 読みやすいの選んでくれてありがとう」
「へえ、そりゃ凄いね」
 ドランクは目を丸くする。
「もしこの後時間があったら、もう少しレベルの高い本を見繕ってあげるよ」
「ほんと? 元々最後の買い物するつもりだったし、付き合ってもらえる?」
「勿論。どの系統を専門にするつもりなのかな?」
 私はさっきラカムにかけた魔法を思い出した。
「回復系、かな」
 ドランクはニヤリと笑う。
「オッケー。団長さん飲み込み早そうだし、杖とかも用意するのが良いかもねえ~」

「ごちそうさま~。このまま買い物して大丈夫?」
「僕達は大丈夫だよ」
「俺はマネージャーに手紙を書いてくる。艇でまた会おう」
 アオイドスを含めた団員達は、それぞれこの島で済ませるべき事をしに四方八方に散らばる。私はドランクに連れられて、スツルムと三人で魔法道具店に入った。
「ちょっと難しいかもしれないけど、回復系の魔法ならこの本が辞書的で、持っておくと便利だよ」
 ドランクは店内の書物売り場に行くと、素早く目当ての本を見つけて私に渡してくる。ずっしりと重い、古風な本だ。
「ロングセラーの本だから、書かれてる内容は良いけど、最新の魔法とかには弱いね。まあそういうのは必要になったら覚えるで問題無いよ、多分」
「ドランクってほんとに魔法に詳しいね」
「魔法に詳しいんじゃなくて、魔法の本に詳しいんだよ。僕の魔法は、全部本から得た情報の組み合わせだし」
 ふうん? 魔法って師匠が弟子に教える形式が多いと思ってたけど、そうでもないのかな。
「杖も良いのが揃ってるね、この店。これとかどう? 持ってみて」
 差し出された杖に付いている札が目に入る。この本も良い値段がするし、その価格はちょっと……。
「もっと安いの無い?」
「装備は高くても良いのを選べ」
 それまで黙っていたスツルムが鋭い声を飛ばしてきた。私もドランクも、驚いて彼女を振り向く。
「後悔したくなかったら。お前の命綱になる物だからな。点検や整備も怠るなよ」
「……僕もスツルム殿に同意するよ。スツルム殿、昔使ってた剣が折れて大変な目に遭った事があるから」
「そうなんだ」
「まあ、杖の場合は呪文や魔法陣と同じで、術者の技術や魔力を研ぎ澄ます増幅装置でしかないから、無くても大丈夫なくらい研鑽すれば良いわけだけど……僕も宝珠無しで仕事しろって言われたら躊躇っちゃうな~」
「大事なんだね、道具選びって」
「うんうん。もし手持ちが少ないんだったら、僕が買ってあげるよ」
「それは大丈夫! これで沢山依頼を熟せば良いんだもんね!」
 私はドランクに杖も見立ててもらって、代金を支払う。
「じゃあね二人とも。次会う時も敵じゃないと良いね!」
「ああ」
「確約は出来ないねえ。傭兵だから」
 重たい本と、思ったよりも大きい物を買う事になった杖を抱えて、私は別れを告げるとグランサイファーへ走り出す。
 これでラカムが怪我しても治せるように……。
 そこではた、と立ち止まる。
『魔法は良いよー。……人を生き返らせる事も出来るしね』
 ドランクがそんな事を言っていたのを思い出す。死さえも無かった事に出来る魔法? そんなものが本当にあるの?
 この本にも書かれているだろうか、と索引を開こうとしたけど、杖がどうにも邪魔で立ったままでは上手く出来なかった。仕方ない、早く艇に戻ろうっと。

Written by